梅雨のビデオまつり「本をすすめまくった1年のこと」「セイレーンの懺悔」

今回は2本だが、前者は1話30分が全10話、後者は1話50分が全4話で映画4本半なのだ。どちらもWOWOWのドラマでAmazonにはないがU-NEXTで無料。

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと
【1,900円】すごく良かった。瀧本美織演じる主人公は書店の店長だが、本が売れずグッズコーナーと面積が逆転。4年前に結婚をしたが離婚が決まっている。膨大な読書量から来る本の知識を生かして、その人に合った本を薦めたいが本を買いに来る客が来ないし在庫もない。そこで出会い系サイトに登録する。このサイトはマッチングアプリのような交際目的ではなく、同じ趣味の人を探すmixiのノリに近い。メッセージのやり取りをして気が合いそうなら待ち合わせ場所を決めて実際に会う。ただし制限時間は30分とサイトのルールで決まっている。これなら口下手な人にもハードルが低い。ここから主人公は一癖も二癖もある人たちに会って話をし、本を薦める日々が始まる...実話にもとづく原作があるそうだが、この設定がすごくいい。そして個性的すぎる人たちに負けない瀧本美織の強い演技があればこそのドラマなんだよね。このドラマのテーマは最終話に凝縮されていて、エピローグでは数々の出会いを通して一段高いところに昇華した主人公の姿が描かれる。大型の書店に転職した主人公は、出会い系のエピソードをネットで連載している。彼女のところへ遠方から女性が訪ねてきて「私にも本を薦めて欲しい」。彼女は母を亡くし悲しみから立ち直れない。主人公は棚から3冊の本を持ってきて、「どれも家族を失った作者の心境が綴られた本ですが、悲しみを忘れて前を向きたいならこれ、悲しみと向き合いたいならこれ、とことん悲しみ抜きたいならこれ」。ここまで来ると読書セラピーなんだよね。他人にアドバイスをしてもよほどの信頼関係が無ければ素直には聞けない。それを自分がする代わりに、多大なページ数と文字数を通して作者の体験だったり物語を使って諭す。このドラマはエンドロールのあとに、劇中に出てきた本の書影とタイトル、作者が紹介される。さらに最後にこだわりの本屋の紹介とそこの書店員が2冊を紹介する。全10話で合計100冊以上の本が紹介されているが私が読んだことがある本は1冊だけ。年間100冊を30年続けたら3,000冊でしょ。作者はその100倍、30万冊を読んでいる計算になる。

セイレーンの懺悔
【1,900円】全4話ってWOWOWだからできるんだよね。中山七里の原作なので小説のとおりに作れば面白い作品になるはずだが、民放が全10話にしたらそこに恋愛要素を入れたりエピソードを追加してどんどんダメになっていく。私は新木優子ってあまり好きではないのだよね。なんか笑顔が邪悪だろう。だがこのドラマではつねに眉間にシワを寄せている。主人公はテレビ局の報道記者。女子高生暴行殺人事件を追いかけるうちに、どえらいスクープをものにする...この先はネタバレになってしまうので書けない。第3話の最後で主人公は奈落の底に突き落とされる。最終話で事件の意外な真相が明らかになり、ちょっと救われる主人公。さらに新しい事実。うん、全4話がちょうど良い。ミステリーで探偵役が警察も見逃している事実を掴んだり、警察の想像が及ばない真相に辿り着くでしょ。このドラマのリアルなところは「記者が掴んだ情報なんか、警察はとっくに掴んでいる」、「記者が想像することなど、警察はとっくに考えて裏を取っている」だ。私もそう思う。