11月に読んだ本

黒龍荘の惨劇

黒龍荘の惨劇

舞台が明治、山荘の住民がつぎつぎと殺されていく...期待して買ったのだがダメだった。デュパンシャーロック・ホームズを祖とする「もったいぶっている探偵」、昔はワクワクしながら読んだがいまはもうダメだ。この不自然さをどうやって解消するかに最近のミステリは工夫をしているからね。


群青のタンデム

群青のタンデム

この人は本当に外れがない。いつもと同じ警察を舞台にした連作短編集だが、本作は一作目では交番勤務だった主人公たちがラストでは警察署長になっている年月の流れの中で、そのときどきの事件や出来事が一話完結のミステリーになっている。よって登場人物は同じながらまったく別のシチュエーションの話が楽しめるわけだ。だが...ラストが悲しすぎる...


カード・ウォッチャー

カード・ウォッチャー

ミステリの新しい形に挑戦し続けている作者、今度はサービス残業が常態化している研究所と、それを調査する労働基準監督局。監督官が査察に来る日に社員が突然死。なんとか査察の間だけでも隠したい主人公たちと、怖ろしく頭が切れる監督官の攻防。張り詰めた緊張感の中で査察が進んでいく...これは作者の代表作「扉は閉ざされたまま」の変形だな。この人、主人公をどんな職業にしてもミステリが一本書けそう。


ナオミとカナコ

ナオミとカナコ

奥田英朗ひさしぶりの長編、しかも犯罪サスペンス物。待ってたよ〜 主人公は不本意ながらデパートの外商部で働く女性と、その友人で夫の暴力に耐えている女性。この夫を殺害することを二人が計画し実行する。もちろん二人は犯罪者なのだが、読者はこの二人に感情移入し応援するように物語ができている。これがまず作者の力量。そして二人が完全犯罪をやりとげてしまっては社会正義に反する。だが逮捕されてしまっては悲しい。この二律背反を成立させるクライマックスとラストの作り方がほかの作家ではなかなか真似ができない作者の力。


64(ロクヨン)

64(ロクヨン)

刊行は2年前、私は半年くらい前に買ったがあまりの厚さにビビって読んだなかった。場所を取るから読んでしまおうと思い立ったのが11月。そうしたら...これは私の今年度のベストワンだ。主人公は元刑事。不本意ながら広報課に異動になって、刑事部、上層部、マスコミの板挟みで苦しむ毎日。しかも娘が家出をして奥さんが鬱状態。交通死亡事故の加害者の実名の公表をめぐって上層部の意向とマスコミの突き上げの間で窮地に陥る。って書くとわずかだがこれが重厚な物語。で、本の3分の2あたりで解決を迎えるのだが、私は不覚にもドトールで泣いてしまった。だが残りの3分の1はなに? と思ったら物語が意外な展開を見せて活劇が始まる。そして冒頭のエピソードが伏線であるのがわかって娘は、奥さんは...この本、人が考える物語の要素がすべて詰まっているように思う。フランス料理と中華料理のフルコースをいっぺんに食べた気分。


化石少女 (文芸書)

化石少女 (文芸書)

石持七海とは別の方向でミステリの新しい形を追求する作者。だがこれはいくらなんでもひねりすぎじゃないか? ひねりすぎて探偵役が事件を解決してない!


死ぬまでに学びたい5つの物理学 (筑摩選書)

死ぬまでに学びたい5つの物理学 (筑摩選書)

死ぬまでに学ぶ必要があるかは別にして、万有引力の法則、統計力学、エネルギー量子仮説、相対性理論量子力学を軸に物理学に起こったパラダイムシフト、そしてそれを為し得た科学者の人生、歴史的背景を解説する近代物理学史。高校の物理学の授業の最初にこういう話をしてくれたらもっと真面目に勉強したのになあ。


出版禁止

出版禁止

「放送禁止」というホラー映画のシリーズを作っている監督が書いた小説。女性だけが生き残った過去の心中事件。なぜかレポが封印され関係者は口を閉ざす...お化けがでるわけではないし、なにかの呪いで人が死ぬわけではないのだが、わからないことへの不気味さで物語を引っ張るストーリーテリングはたいしたものだと読んでいたが、ラストがぶっ飛びすぎていただけない。


敗者の告白  弁護士睦木怜の事件簿

敗者の告白 弁護士睦木怜の事件簿

妻と息子が別荘のテラスから崖下に落ちて死亡。事故死に見えたが妻からの告発文が雑誌社に届いていた。夫が私と息子を殺そうとしていると。夫の逮捕後、今度は息子からの告発文が祖母に届いていたことが判明。お父さんとお母さんがボクを殺そうとしていると。弁護士が聞いて回る関係者の談話が一つの章になっている最近よくあるスタイルだが、章ごとにひっくり返る真相。残念なのが早い段階から「たぶん真相はこうなんでしょ」と予想がついてしまうことだな。