SF作家としての活動期間はわずか1年半、34才で夭逝した作者が残した長編はわずか3冊。以前に紹介した「
虐殺器官」と本書は数々の賞を総なめにした日本SFの金字塔。惜しい、本当に惜しい。最後の長編となった本書は「
虐殺器官」のその後の世界だが続編というわけではないので前著を読んでいる必要はない。筆者特有の独特の虚無感の中で主人公の戦いが描かれる。
3人の女性の日常が並行して描かれる。とくに大きな事件は起こらないのだが、3人ともそれぞれ人生の壁にぶつかっている。これを読んでいる途中で、3人の女性を描きながら、実は3つの話は時制が違っていて同じ場所で起こっているという結末の物語が書けるのではないかと思った。よし、私の作家デビューはそれで行こう! と決めたらこの小説はそういう話だったよ。ネタバレ御免。デビュー作であり映画にもなった「告白」から一貫して女性の悪意を書き続けた作者だが、新境地を切り開こうとしている意気込みは感じる。もう一歩だ。
北陸の寂れた場所にある民宿の主人にまつわる連作集。どんでん返しにつぐどんでん返しの1作目はびっくりした。2作目、3作目と、いったいこの話はどういう方向に進むのかわからない酩酊感が秀逸なのだが、全体のストーリーが見えてしまうとどんどん小粒になってしまうのが難。
未解決の事件を30個。どれもよく知っている事件だ。タイトルからてっきり真犯人が本書で暴かれるのかと思ったが、そんなことをしたらとっくにニュースになっているな。
5月は買ったもののあまりのボリウムで本棚に並べておいた本を読んでいったので冊数は伸びなかったのよ。何度も紹介した筆者は、「切な系SFホラー」という新ジャンルを作ったパ
イオニア。てっきり短編の人かと思ったら、これは重量感あふれるガチのSF長編。デビュー作である短編の「魚舟・獣舟」の長編。この話はどこか別の天体の話だとばかり思っていたのにまさか未来の地球だなんて。大規模な
地殻変動で海面が260m上がってしまった地球。まさにウォーターワールド。
庭にたくさんのひまわりが咲いている洋館、ここは下宿屋。そこに住む小学生の男の子。その洋館の写真に魅入られて場所を探す
学芸員の女性。この2つの物語が並行して描かれる。もうわかったよ。これも時制ものだろ。半分あたりでこの2つの物語に共通する人物がわかる。それなら男の子はなぜもう一つの物語に出てこないんだ? つぎはそれが謎となって最後に引っ張る。その謎が明かされたとき、物語はやりきれない哀しみとともにエンディングを迎える。うーん、これは後味が悪すぎる。