10月に読んだ本

まずは古本屋で買ったこの3冊。

死都日本

死都日本

プリズン・トリック

プリズン・トリック

終末のパラドックス

終末のパラドックス

どれも着想はいい。プロットはいいのだが、共通している欠点がありいまいち作品世界に入り込めない。物語が複数の人の視点から描かれるのだが、どれも人物の書き方が弱いので素人の撮ったビデオを見るような落ち着きの無さがある。最近、芸人の書いた本がそこそこのベストセラーになったりする。あれは自叙伝だからなのだね。誰でも生涯に一冊は傑作が書けるという。自分の人生でもっともドラマチックだった時間を書けばそこそこ読める話になる。その自叙伝においての視点の確かさと対極にあるのがこの3冊。どれも物語の構造から複数の視点が必要なのはわかるのだが、どれも作者の筆力不足。
「死都日本」は「日本沈没」を彷彿させる自然災害パニック物。5cmもある分厚い本でBOOKOFFのワゴンで300円だったので買ってしまった。きっかけは九州での噴火だったが、それが日本全土や近隣諸国も巻き込む大災害になる。だが、地球の歴史のスケールで見れば、たまたま有史以来起こらなかっただけらしい。この本を読んで私はかなり火山に詳しくなったよ。「プリズン・トリック」はアイデアは素晴らしいのだが、恐ろしくまとまりが無い。乱歩賞受賞作らしいが、この作者があと10年活躍できたらぜひ改訂版を書いて欲しい。実に惜しい。「終末のパラドックス」は実にタイムリー、新型インフルエンザの爆弾を世界中にしかけて要求を出す犯人。鍵を握るのが孫娘なのだが、この孫娘の人物造形がさっぱりわからん。いや、登場人物全員の造形が。そもそも主役はどいつだよ。


追想五断章

追想五断章

花と流れ星

花と流れ星

上の3冊に比べると、この売れっ子作家の話の運び方は見事。それぞれ代表作にはならないが。


オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険

オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険

心理学の本に出ているインドで見つかったオオカミに育てられた少女とか、サブリミナル効果とか。あれはぜんぶ嘘っぱちだと知ってたか? 私はこの本を読むまで知らなかったよ。結局、心理学って新しい学問なのだよね。量子力学は新しいと言っても物理学自体は千年以上前からあるでしょ。ところが、心理学は学問として確立される過程で、学者の思惑とかマスコミの影響とかいろいろ不純な物が入ってきてしまう。その結果、権威ある学者の説が、ほかの研究者が検討したり、反証を掲げる前に、権威ある説としてまかり通ってしまう。とくにサブリミナル効果は学者が唱えた説でさえ無い。「ありえねえだろ」と学者が笑っているうちにマスコミで有名になってしまい、禁止する法律までできてしまった。


知識だけあるバカになるな!

知識だけあるバカになるな!

期待はずれだったが、○クス主義がなぜ○ヨクの人たちのような言説を生み出すのか、それに反論するにはどうしたらよいかが役に立ったよ。これもBOOKOFFだからそれだけで元は取れたのかな。


信じない人のための〈宗教〉講義

信じない人のための〈宗教〉講義

これは期待はずれだったなあ。高かったんだよ、この本。毘沙門天帝釈天、大黒様、これらは仏教じゃなくてヒンズー教の神様なんだって。


脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説

脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説

これはすごい本だ。脳とクオリアで有名な茂木先生の上を行く、ぶっ飛んだ学説。ある種の爽快感がある。私も完全に理解できたわけではないが、「私」とか「意識」はなんら主体性のある存在ではなく、「無意識」が考えた膨大な数の候補の中から、いちばん良さげなものを選んでいるだけだと。ちょっと説明する自信がないので、ここまでの話が興味を持った人は読んでみてくれ。やさしい言葉で書いてあるのですらすら読める。この先生の説だと、あまりに脳の働きが違うと思ってた昆虫−猿−人間がシームレスにつながり、アトムのような知性や感情のあるロボットだってそう遠くないうちに作ることは可能だ。人類の未来は明るいぞ