失礼なのはおまえよ−罰当たりなのは俺だ(後編)

M142005-12-08

読み終わった本の保管をやめてしばらくたったある日、また悪魔の声が私に囁く。その日は厚い単行本を電車の中で読んでいた。

     読み終わった前半部分はもう読まないよな

電車の中でハードカバーの単行本を解体し、まだ読んでいない後半部分だけを残し、前半部分を堅いカバーごと捨てた。

     軽い...すごく軽い

鞄が一気に軽くなった。その後半部分も半分を読み終わったところで、前半部分を捨てた。1/2→1/4→1/8・・・4cmはあった単行本はみるみる薄くなり、読了したときには10ページくらいに。最後はスーツの内ポケットにさえ収容可能だ。悪魔に魂を売った私は、それまで値段もさることながら持ち運びが重いので敬遠していたハードカバーの単行本もガンガン買うようになった。
しばらくすると悪魔の声が私に追い打ちをかける。

     ハードカバーの本って、ハードカバーはいらないよな

そうなのだ。カバーは読めない。読むのは本文だけだ。単行本を買うと、まずは本を解体する。さらに厚い本は2cmくらいずつ上下巻または上中下巻に分ける。これならどんなに厚い単行本も苦にならない。こうして、もし本の神様がいたら絶対に天国には行けない私の罰当たり人生は今も続いている。だがたまに天罰が下る。読みながらどんどん捨てて最後に厚さ5mmくらいになる。関係者全員が集まった広間で探偵が「犯人は鈴木だ」と叫ぶ。鈴木が誰だったか思い出せなくても記述してある部分はもう手元にないのだ。