北川景子「どうする家康」

豊臣秀頼をはじめ家来の全員が切腹し、燃える大阪城にひとり残された茶々。

   
   日の本か...つまらぬ国になるであろう
   正々堂々と戦うこともせず万事長き物に巻かれ
   人目ばかりを気にし陰でのみ妬み嘲る
   優しくて卑屈でか弱き者たちの国
   己の夢と野心のためになりふり構わず力のみを信じて戦い抜く
   かってこの国の荒れ野を駆け巡った者たちはもう現れまい

現代への批判とも取れるが、みんながそれを望んでいては平和は訪れない。乱世を求める豊臣と天下太平を求める徳川の、理想と理想のぶつかり合いが大阪の陣だったとの解釈。息子に天下を取らせたいだけの愚かな母親として茶々を描いている作品しか私は見てなかったので、北川景子が市だけでなく茶々も演じるとわかったとき良い気はしなかった。だが息子に天下を取らせるとか豊臣家を再興することより、乱世に身を置き戦い争いの中で自分の魂を燃焼させたいと願う新解釈の茶々。よくぞこの役を北川景子にやらせてくれた。私はこれからもNHKに受信料を払うぞ。北川景子っていままでテレビも映画も綾瀬はるか新垣結衣長澤まさみら同世代の女優に比べて作品に恵まれなかったと思うんだよね。まあ、その程度の実力だと言えばそのとおりなんだが。それでもキワモノのドラマやどう考えてもヒットしなさそうな映画に出演しながらも着々と力を蓄えて当たり役を引き当てた。終盤は老境に入ってしょぼくれた家康に変わって茶々が主役じゃないか。「セーラームーンスーパーライブ」で一人だけ変なテンポで踊っていた北川景子、「モップガール」で児童の服を着てリコーダーを吹いていた北川景子がここまでの女優になるとはなあ。

   
   「茶々はようやりました」

いままでと口調が変わって最後のセリフ。亡き母に言ったのだろうか。母はこんなことを望んでなかったと思うが、母を死に追いやった憎き豊臣家を跡形もなく消したのも事実。このあと短刀で首をさばいて自害。女性は前に倒れて事切れる描写がふつうだが、茶々は仰向けに天を仰いで倒れる。

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ここからはエピローグ。第1話から寺島しのぶのナレーションが入っているが、これは春日局が幼き徳川家光に語っていたという種明かし。

   

登場人物の誰に敬語を使って誰に使わないかでこれを2、3か月前に当てた歴史通がいたな。具体的なセリフは忘れてしまったが、たとえば「社長が召し上がった弁当と同じ物を事業部長が食べています」なら、これを言ったのは取締役か本部長ってことね。でもこれを秘書室の平社員が言うからムカつく。ちょっとうれしかったのがこのあとのシーン。

   

家康の生涯を後世に伝えるために正史を編纂している。指揮を執っているのが南光坊天海で、これを演じているのがサプライズ出演の小栗旬。だが、

   

特殊メイクがすごすぎて誰だかわからない。ここに一人だけ加わっている女性が、真田家に嫁いだ鳴海唯演じる稲。

   

初登場から30年近く経っているはずだが、老けメイクにするのが面倒くさかったらしくそのまま登場。最終回に出番があるとは彼女も運がいい。

   

死の床に就いた家康の前に瀬名(有村架純)と信康(町田君または門司君)が現れるのは予想がついた。だって家族も家来も先に死んじゃって家康は孤独なんだよね。だが第36話でちらっと出た「信康の祝言の席で起こった愉快なエピソード」が謎のままだったが最終回で家康の回想として再現されるとは。

   

全員に見守られて、というか連れて行かれる家康。

   

ラストは回想のつづきで、祝言の席で踊って騒いでいる家来。それを縁側で見る家康と瀬名。

   
   「わしが成したいのは今日この日のような世かもしれんな」

   
   「わしは信じるぞ いつかきっとそんな世が来ることを」

遠くに東京タワーと高層ビル群が。明治以降の日本の繁栄は、その前に260年続いた平和な時代が基礎になった。殿のおかげでございます。