梅雨のビデオまつり「許された子どもたち」「教誨師」

今回も異色作ぞろいだよ。

アトラクション 制圧(吹替版)

アトラクション 制圧(吹替版)

  • イリーナ・ストラシェンバウム
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 【1,500円】舞台はロシア。UFOが上空を飛んでいるので撃墜する。するなよ、もっと様子を見ろよ。UFOは都市に墜落し大変な被害になる。軍によって封鎖された地帯に学生の主人公と悪ガキグループが入り大怪我をして動けない宇宙人(人間そっくり)を見つけて連れて帰る...ここからはネタバレになるが、UFOは地球を観察しに来たところでステルス機能が故障したため撃墜されてしまう。撃墜しなければ都市に被害は出なかった。宇宙人は一刻も早くUFOに戻り飛び立ちたいだけなのに人間が勝手に憎しみを増加させ争いを始める。もうホントに人間ってバカ。

 【1,900円】これはあらすじを読まず、予備知識なしで、スラングである「フロッグ」の意味も調べずに見たほうがいい。ある家族が住む家の中で不可解なことが起こる。はじめは些細なことだったが、奥さんの元浮気相手が地下室で死んでたり、息子が怪我をしたり不可解では済まなくなってくる...ここまでが40分くらい。そこから物語の位相ががらっと変わりいままで見ていた物語が別の視点から語られる。それが追いつくとまた別の視点から...このどんでん返しがよくできている。不明だった動機が最後に明らかになるラスト。それにしても女の子がかわいそうだ...

 【1,600円】「高嶺のハナさん」さんの9話と10話の監督の作品。全編、「うわー」って感じの胃が持たれる映画。主人公の少年は家では良い子だが、外に出ると弱そうな子への暴力や物を壊すことをなんとも思わないワル。同じくワル仲間と生け贄をいじめているうちに殺してしまう。防犯ビデオの映像から全員が逮捕されるが、敏腕の弁護士と、全員がその子に会ってないと口裏を合わせたこと、未成年だから大人以上に疑わしきは罰せずで全員が不審理(不起訴)になる。だが少年は「許された」ことにより自分の行動を見つめ直す機会を与えられなかった...主人公と親はどんどん不幸になるのだが、本人はまったく反省しないで親も疑わないので、見ている側は主人公に同情できない。むしろもっとひどい目に遭えと思えるので気が楽。それでも最後まで許されてしまうのでもやもやが残って終了。

 【1,900円】大杉漣さんプロデュース・主演の遺作。予告編を映画館で観たとき、こんな映画を観に行く人がいるのか、映画として成立しているのか疑問だらけ。会員無料になったので見てみたら...大杉さん、すごい作品を遺されました。もっと長生きされてたらどんな作品が生まれたのでしょう。教誨師とは死刑囚の心の救済に努め彼らが改心できるように導く人。教誨師大杉漣、彼が拘置所で面会する6人の受刑者が光石研古舘寛治はじめ一流のバイプレイヤー。狭い面会室で行なわれる教誨師と受刑者の会話だけでほぼ構成されている映画でBGMもほとんど無い。受刑者は何をしたために死刑の判決を下されたのかはっきりとは語られない。それなのにまったく飽きないのはほとんど身体の動きがないにもかかわらず声と顔の表情だけで見せる7人の俳優のうまさ。とくに革命をめざして大量殺人を行なった(らしい)若者との会話。1回目の面接では「いかなる理由があっても生命を奪ってはいけません」と言った教誨師に「そんなら牛や豚を殺して食べていいのはなぜ?」とか「俺が死刑になるのはなぜ?」と問われて答えられない。この若者との最後の会話が映画のクライマックスになっている。主人公はどうやって若者の心を動かすのか、すごく参考になる。よく言われる「論破」とはまったく違ったアプローチがあることを教えられた。大杉さんのご冥福を祈ります