秋の映画まつり「スパイの妻」「朝が来る」

この2本と「罪の声」を見たかったんだが、例のアニメの影響でほかの映画が同じ時間帯に押し込められてんだよ。

   f:id:M14:20201030181303j:plain

黒沢清監督。これはNHKで8K放送のドラマとして放映されたものを映画用に再編集したらしい。すげえよ、8K! 何がすごいってまずは「黒」。ポスターを見てもわかるように戦時中の話なので高橋一生蒼井優もカチっとした髪型でしょ。それが薄暗い部屋でも髪の毛の一本一本が見えるんだよ。さらに室内で光が当たってない影の中で、家具や物が視認できる。また室内にあるスタンドや鏡の上にある照明器具で色の違いだけでなく光の拡散に差があるのがはっきりわかる。机の上に置いてある万年筆の光沢とか、金属はもちろん革製品の反射もリアル。これが8Kの実力か。すごいぞ、NHK。私はこの8K映像を観に行ったので映画自体は退屈でも我慢しようと思ってたのだが、ストーリーもすごく面白かった。自分の正義を信じて日本を敗戦に追い込もうとする夫、それを阻止しようとする妻の正義。ラストはどう解釈するのだ? このままでは国家の反逆者になってしまう妻を夫が守ったとも考えられるし、足手まといになりそうな妻を夫が裏切ったとも思える。それにしても蒼井優のポテンシャルの高さよ。

 

   f:id:M14:20201030181258j:plain

原作は読んだ。テレビ版も最終回だけ見た。テレビは主人公が川島海荷、主人公が生んだ子どもを育てる妻が安田成美、夫がココリコの田中。なんか、みんなチャラい。映画版は永作博美井浦新が夫婦でぐっと重くなる。主人公は新人で映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」で南沙良と一緒に主役をやった子(ポスター左下)。ちょっと強そう過ぎて原作のイメージに合わないが、新人を起用するのは良いことだ。監督の河瀬直美東京オリンピックの公式記録映画の監督だったのだが、さてどうなるか。すごく期待して観に行ったのだが、原作と比較して時間の配分がどうなんだろうと思った。主人公は子どもを産んで里子に出した後、不幸の坂道を転げ落ちるんだよね。でも時計を見たら上映時間があと15分くらい。まさか後編につづくじゃないよね。彼女は自分の親を筆頭に、子どもを導いてくれるまともな大人に巡り会わなかった。里親を斡旋するNPOの先生(映画では浅田美代子)と離れてからは悲惨な青春になる。やっと出会った正しい大人が、回り回って自分の子どもの里親だったという。この物語、原作では最後の3ページがすべてなんだ。前半を端折っても後半を描かないとラストが生きてこない。途中がグダグダでも最後の3ページを原作どおりに描けば「ああ、いい映画を観た」と思えるんだが、そこをなんで省略するのか? この監督が大好きな木漏れ日のイメージ映像はそこで要らないから。