5月に読んだ本

異形コレクションシリーズ、もう全部読んでしまった。新刊が出ていないのでこれが最後か。寝る前に読むのにちょうど良かったのだが、残念。


これはなかなかの良書。「問題解決」というキーワードでいろいろビジネス書が出ているでしょ。ロジカルシンキングとか問題解決に対するツールは問題が明らかになってないと役に立たない。まったく新しいイノベーションとか、「想定外」では済まないような*1トラブルの予見とかは、いまわかってない問題を発見しなければならない。この「問題発見」は「問題解決」とはまったく別の思考法が必要である。


実話系怪談集。3巻目であり、前書きで「私にはもうネタが無い。本書も人づてに話を探してやっと集めた」という著者の愚痴が長々と書いてあるという珍しい本。気の毒なので不思議な体験をした人は著者に教えてあげてくれ。


名画は嘘をつく (ビジュアルだいわ文庫)

名画は嘘をつく (ビジュアルだいわ文庫)

絵画を見るとその時代のその国の社会、つまり歴史がわかる。逆に歴史がわかっていると絵画に描かれているものが見たとおりでないことがわかる。有名なミレーの「落ち穂拾い」。あれは刈り取られた畑に、近隣の貧しい人が来て刈り取りのときに残った穂を拾って糧にしている貧しい人たちを描いたものだそうだ。私も好きなフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」は実在の人物ではないとか、ルノアールのなにか絵は紳士淑女の社交場のように描かれているが、この時代のここは労働者が集まるところで人物はすべてルノアールの創作とか。西洋絵画が好きな人にはお勧めする。


これも実話系の怪談だが、筆者はノンフィクション作家。ノンフィクション作家は「事実だけを書き、自分の想像や創作をいっさい入れてはならない」を信条とするそうだ。それを破ると自分の信用、結局は仕事を失うことになると。朝日新聞に聞かせてあげたい。この本も著者が体験したことや、人から聞いた話を、想像をいっさい交えずに事実だけを書くことに徹している。それはそれで怖い。


絶唱

絶唱

かなり前だが湊かなえは佳作と駄作が交互に来ると書いたことがあるが、ふと気がつくと駄作が無くなって一定水準の作品が連発されている。なぜかミステリー系の女性作家は我慢して追っかけをしているとどんどん上手になって行くのがわかる。本作は長めの短編が4つ。残念ながらそのうち2作は「Story Seller」で読んでしまっていた。だが、4編を通して読むと登場人物が共通してる連作の短編であることがわかる。


これは不条理ものというか幻想ものというか、オチがなんだかわからない話ばかりだったよ。


なぜ世界は不幸になったのか

なぜ世界は不幸になったのか

これも良書。現代的な問題を過去の哲学者や思想家が唱えたことで説明する本は何冊か読んだが、こじつけっぽいのが多い。だが本書はうーんと唸る内容ばかりですごく得をした感じ。民主主義の問題点は100年前から指摘されていて、橋本さんがこの本を読んでいたら住民投票なんかやらなかったと思う。またいまから80年前に出たオルテガ「大衆の反逆」に「大衆とは、凡庸であることを自覚しつつ凡庸たることの権利を主張し、圧倒的な自信の下、浅薄な価値観を社会に押しつけようとする存在」。ネット社会の現代こそ光る言葉だと思わないか?


著者が手に入れた実話の中で奇妙な類似点がある話が二つある。よくよく調べるとこの家はこっちの話のここ、この人はこっちの話のこの人と。現代に起こった怪異の因果が過去の話で解明するというミステリーの手法を取り入れたホラー小説。私はAmazonで単行本を買ったのに文庫本が出ていたのがわかりショック。

*1:東電は済ませちゃったけど