4月に読んだ本

領主館の花嫁たち

領主館の花嫁たち

18世紀、顔に大きな傷がある美貌の家庭教師が赴任した屋敷は、花嫁が代々、変死するという貴族の屋敷。この家にはなにかがある。なにかにつけ彼女の邪魔をする給仕長や曰くありげな使用人の中で、教え子の双子の少女を守るため奮闘する。ところが中盤でとんでもない展開になり、一気に私の嫌いな話に。3月の読書冊数が伸びなかった原因がこの本。


新耳袋の作者の一人による怪談集。地方の妖怪談的なテイストで、怖いよりむしろほっこりする。


昨年の「このミステリがすごい」で1位だか上位だった作品。有名なミステリやミステリにまつわる逸話のパロディ集になっているので元ネタを知らないと楽しめない。タイトルになっている話は「ノックスの十戒(探偵小説のべからず集)」にある「中国人を登場させてはならない」という不可解なメッセージの謎を探りにタイムマシンでノックスに会いに行く話。ある意味バカバカしい話だが、過去へのタイムトラベルの論理が丁寧に扱われている。以前に映画「僕の彼女はサイボーグ」のタイムトラベルを論理的に成立させる方法を書いたことがあった。あれを書いている途中で自分の理屈の問題点を発見したが、こんな記事をそこまで考えて読む人もいないだろうと放置した。この本ではまさにそこを突いている。量子論的多宇宙解釈なら、過去に戻って歴史を改変してもそこから歴史が分岐し別の歴史が始まるので、有名なタイムパラドクスである「自分の父親を殺したらどうなるか」はそもそもパラドクスではない。自分自身を殺しても問題ない。それまでの自分がいなくて未来から来た自分がいる歴史が新たに始まるのである。ところがここで疑問が生じる。未来から来た自分が戻る未来はいったいどっちの未来なのだと。


ある失敗のためクラス中から無視をされている主人公。まるで自分が存在しないかのように扱われている。そんな自分の唯一の味方がエキセントリックな美少女。この学校で発生している小動物殺し。それがだんだん大きな動物になっていってる。主人公と少女は犯人を捜すことになったが...物語の中盤でそこまでのストーリーがひっくり返るどんでん返しが起こる。さらにラストで反転する大仕掛け。作者の心意気は大いに買うが、私はこの作品、ミステリとしては反則すれすれだと思う。主人公の一人称で書かれているので、主人公が誤解や勘違いをするのはいい。ただ主人公が見えている物は正しく読者に伝えなければミステリとして成立しないのではないか。中盤のどんでん返しはなくても佳作として評価できるので余計だったと思う。


二歩前を歩く

二歩前を歩く

ミステリの新しい形を追求する著者。今度のもすごい。テーマが心霊現象の連作短編集。ただし心霊現象を科学的に解明するなどというヤボはしない。現象は現象で受け止めて、それが発生する理由はなにか、つまり幽霊とか怨念とか原因はわからないが、それが不可思議な現象を起こすことによって人間に訴えたいことはなにかを現実の中から探っていく。すると心霊現象に悩まされて探偵役に相談しに来た人がかかえる秘密が明らかになる。どの話もラストは切なく良質の読後感がある。探偵役は企業の研究所に勤めるサラリーマンだが「幽霊を否定するのは文系だ。理系は無いことが証明できなければ否定はしない。そして有ることを証明するのはできるが、無いことを証明するのは難しい」。このスタンス、私も賛成だ。


kindle版がセールで300円くらいだったので買ってみたよ。都知事選で20代の支持率が高くて「若者の右傾化が心配される」と新聞やニュースが言っていた。でもこの人が言ってることは至極真っ当で、右翼だとか国粋主義者だとかは当たらない。中道路線のこの人が右寄りに見えてしまうほどマスコミが左に寄っていることにマスコミが気がついていないのが私は心配だ。


セラピスト

セラピスト

絶対音感」の著者による箱庭療法や絵画療法など心理療法の歴史と、そこに携わる人のインタビュー。すべてではないにしろ統合失調症も直る。ただし膨大な時間がかかる。20年近く前だが「うつ病は気軽に医者に」というメッセージのCMをよく見たでしょ。ひどくなる前に、短期の治療で寛解できるうちに医者に行く。それによって救われた人は少なくない。だがあのCMはアメリカの大手医薬品メーカーが発売した抗うつ剤のキャンペーンだったのだって。あれ以来、患者が爆発的に増えて、箱庭療法のような時間がかかる治療はできなくなってしまったそうだ。


書店でパラパラと見て買ってしまったが、目新しいことはなかったな。良いスーツを着るように良い話し方をしましょうと。


仮面同窓会

仮面同窓会

高校の同窓会で久しぶりに顔を合わせた旧友。当時、ひどい目に遭わされた教師に仕返しをすることになる。当時やられたようにやり返すだけだったのに、仕返し後にその教師が別の場所で殺されていた。いろいろ紆余曲折があって、読後感が極めて悪いラスト。もうちょっとなんとかならなかったのか。


思いつくものではない。考えるものである。言葉の技術

思いつくものではない。考えるものである。言葉の技術

電通のコピーライターの著者。言葉は思いつくものではなく考えるものだと主張する。そりゃそうだな。研修で生徒が出した例をあげながら、深く考えるとはどういうことかを指南。悪くはない本なんだけど、紙が厚くて字が大きいから1時間くらいで読み終わっちゃったよ。


豆の上で眠る

豆の上で眠る

これの映画化は無理ではないか? 子どものころに姉が失踪して数年後に戻ってくる。姉はその間の記憶を失っているが主人公は戻ってきた姉は別人だと疑う。成人した妹が故郷に戻り、駅前の喫茶店で休んでいると姉が同じ背格好の女性と歩いている。その女性が本当の姉ではないか? そこから過去の失踪事件の回想になる。最後はかなり複雑な真相が明らかになり意外な真相となる。そのアイデアや最後まで引っ張る筆力は見事なのであるが、これはミステリーとして私が嫌いなタイプなのである。関係者が自分の知っている事実をはじめから主人公に話していれば謎が消滅する。謎が消滅するとそもそも小説がなりたたないわけで、秘密にすることの必然性がどれだけあるかという問題になるが、いずれにしても謎としては小粒であると言わざるを得ない。