9月に読んだ本

陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)

陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)

名作「傍聞き」の著者のデビュー作であるミステリータッチの短編集。タッチというのはすごい事件が起こるわけではないが最後に意外な種明かし。種明かしをされるまでこの話のどこに謎があったのかわからない。この人、当たり外れがない人なのかもしれない。


短編工場 (集英社文庫)

短編工場 (集英社文庫)

当代の人気作家の名作を集めた短編集。なかなかの粒ぞろいでお得感があるのだが、人気作家だけに読んだことがある話が多いので損をした気分に。差し引き得なのか損なのか?


ドミノ倒し

ドミノ倒し

探偵事務所を営む主人公に、元彼の容疑を晴らして欲しいと依頼が来る。事件を調査すると背後に別の事件、それを調査するとさらに別の事件が浮かび上がるのがタイトルの由来。ここまでの紹介を読むと面白そうだろ。でも内容をまったく覚えてないので最後にバタバタと事件が片づいたり伏線が回収されるという爽快感はなかったように思うよ。


教場

教場

今月一作目の作者の最新刊。タイトルは警察学校のこと。ここを舞台に訓練中の警察官の日常とちょっとした事件を描く連作短編集。なにより警察学校の厳しさにびっくり。体力だけでなく学科も厳しく、成績が悪かったり規則違反をすると即退学。近所の交番や自転車に乗っているおまわりさんはここを卒業したのか。ちょっと見る目が変わった。


見当たり捜査官 (双葉文庫)

見当たり捜査官 (双葉文庫)

指名手配犯を発見するために膨大な顔写真を暗記し、人混みに立って犯人を発見するのが主人公。こういう人って本当にいるのかな。作者らしからぬシリアスな話だが、読み進むうちにどんどん崩れてきてラストは作者得意のカタストロフィがやってくる。これ、要るのか?


タイド (単行本)

タイド (単行本)

リングシリーズの最新刊。かなり微妙だ。


先月に読んだ青少年のために読書案内で紹介されていた本。タイトルの「YA」は「ヤングアダルト」だって。つまり児童文学と一般の文学の間をつなぐものとして、青少年でも楽しく読めて心に残る短編を集めたアンソロジー。私の場合はそれがシャーロック・ホームズ江戸川乱歩だったがな。これは素晴らしい試みだと思う。どれも読みやすく作品ごとにテイストが違うので、いちばん気に入った話で夏休みの感想文を書けば良い。どれも感想文が書きやすい作品ばかりなので中高生にお勧めだ。それ以前に子どもに読ませるのはもったいない。


山岳ホラー短編集の第3弾。この著者は本当に文章がうまい。ホラーは日常と非日常の落差が醍醐味なので、むしろ日常部分のリアリティが勝負なのではないかと思う。


死神の浮力

死神の浮力

今年の小説大賞はこれで決まりだ。またも伊坂幸太郎は読者を裏切らなかった。「死神の精度」の続編だが、こちらを読んでいる必要は無し。今回は前作とはがらっと変わって冒険活劇だ。娘を殺していながら裁判で無罪になってしまった犯人の復讐をしようとする若夫婦。その夫を担当している死神が前作に続き千葉(死神の名前)。伊坂幸太郎の小説は、この話がいったいどういう展開をするのはまったく読めないのが持ち味であり、そこがどうかすると初心者にはとっつきにくいかもしれない。本作は復讐というテーマがあるので話の進む方向がわかりやすい。その点で伊坂幸太郎の入門書としてもお勧めしたい。ビジュアル要素もふんだんにあるのでぜひ映画化して欲しいなあ。タイトルの「浮力」ってなによとずっと思いながら読み進むとラストでわかる。しかも話の筋からしてぜんぜん重要じゃない。