3月に読んだ本

角川が出しているなんかの雑誌に掲載された短編を集めたやつ。私が好きな作家の短編は語り口がそのまんま恩田節、摩耶節なのがうれしい。


作者の初期の長編だと思う。「吹雪の山荘」で演じる「南海の孤島」の推理劇。劇中で殺される役を演じている役者が、実世界でも殺される。このけっこう無理な設定を緊張感を失わせずに読ませる前半はなかなかだがラストが凡庸になってしまうのが惜しい。


強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く

強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く

宇宙に働く4つの力、「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」。「重力」と「電磁気力」の重厚さに比べて「強い力」と「弱い力」のネーミングってどうよ。最初の2つは学校で習ったがあとの2つは教養課程では出てこなかったな。物質の成り立ちに関係する力で、なにしろこの方面だけでノーベル賞が数十個という遠大なテーマ。後半はまったく付いていけませんでした


セクメト

セクメト

この作者のファンの人がここを読んでいたら申し訳ないが、ひさびさの大ハズレ。ストーリーとか人物造形以前に小説作法としてどうなのよ。事件の鍵を握る人物が主人公に真実を告げない。もったいぶっている内にどんどん人が死んでいく。このストレスに対するカタルシスもない。そして別の人物に出会うとその人の口から延々と真相が語られる。それが絵に描いたような説明調。だめだこりゃ。


眩談 (幽BOOKS)

眩談 (幽BOOKS)

ホラーというより「薄気味悪い」話の短編集。この薄気味悪さの演出は、登場人物の目に映るもののディティールをいちいちしつこいくらいに書き込むことによって醸し出される。なるほど。


伊坂幸太郎の新作。ある人物とその人に関わる人を描く連作短編集。あいかわらずうまい。5編ある話の中で、前の話が後ろの話の伏線になってたりするのだが、単行本用に書き下ろした最終話を除く4話は雑誌に掲載されたものだが、4話とも別の雑誌なのだよね。当然、発売時期も数ヶ月空いている。つまり伏線といっても、よほどの伊坂フリークでない限り4話とも読んでいる人はいないだろう。時間と場所を超越した伏線。こんなもん、誰もわからないだろう。


リカーシブル

リカーシブル

超常的な謎がすべて日常の中におさまるラスト。アクロバティックなミステリでありながら、前景は複雑な家庭事情をかかえる少女の悲しみや寂しさが淡々と描かれるのでミステリとしての技巧がいやみでない。小説としての有り様において、こき下ろした前述の作品と対照的と言える。