3月に読んだ本

私は本を読むのも早いが内容を忘れるのも早いので、同じ本を二度買わないように本を読み終わったら記録を付けている。といっても読書ノートなどという立派なものではなく、タイトル、作者、出版社くらいのメモ。ついでに1から5まで通信簿をつける。3月に読んだ本はすべて「5」という蒼々たるラインナップだ。

名短篇、ここにあり (ちくま文庫)

名短篇、ここにあり (ちくま文庫)

北村薫宮部みゆきが選ぶ短編集。半村良小松左京城山三郎吉村昭吉行淳之介山口瞳多岐川恭戸板康二のけっして代表作ではないが、この人はこんな話を書いてたんだという意外性を狙いながらも傑作ぞろい。こんな話を見つけられるとはどれだけの読書量なのか


傍聞き (双葉文庫)

傍聞き (双葉文庫)

たしか昨年度の「このミステリがすごい」でベスト10に入った作品ではなかったっけ。刑事、消防官、救急隊員、刑務官を主人公にした短編集。話は4つだけだが、それにしても本が薄い。ショートショートと短編の間くらいの長さなのだが、どれも濃密、濃厚。最後に話がストンと落とす展開が見事。しかもオチがすべてタイトルになっているのに話の落とし方が最後までわからない


ブラック・アゲート

ブラック・アゲート

この作者としては異色ともいえる舞台は現代の日本。人間を死に至らしめる蜂が大量に発生する。しかも指された人間は死ぬ間際に狂乱状態になり回りの人間を道連れにする。体内には大量の幼虫が発生しており死体を放置すると成虫の蜂が飛び立ち被害が拡大というたちの悪さ。物語は瀬戸内海の小島から、この蜂に刺された娘を静岡だか岐阜*1の病院に連れて行く夫婦。その病院には特効薬があるという噂だけを頼りにして。しかも感染者を殺害する許可を持っている特務機関が親子を追跡する


追悼者

追悼者

夜になると街角に立ち男を誘っていたというOLが殺害される。このOLの生前の様子を調査するルポライターの回りで起こる事件。例によってこれ以上あらすじを書けない。途中途中に挿入される犯人目線の記述。これはいったい誰なのか。最近、スタイルが変わって不満だった作者の原点回帰の佳作。


マアジナル

マアジナル

この作者は好き嫌いがあるだろうな。好きな人には外れがない。この作品も作者得意のジャンルで、スーパーナチュラルの話のようでいて、そうでもないような展開で最後はなんだかよくわからない終わり方。もし読んだ人がいたら教えて欲しい。あれは幻覚だったのかリアルだったのか。


犯罪

犯罪

これも昨年度の「このミステリがすごい」や「本の雑誌」のベスト10に入った作品。主人公は弁護士で、彼がかかわった事件を回想する短編集。とはいっても話の中心は犯罪者の方で、弁護士は最後にちょっと出てくるだけ。それほど突飛な話なのではないが、語りの上手さというのはこういう小説のことなのだろう。ほとんどは殺人事件で、本来は憎むべき犯罪者なのだが、どれも犯人に感情移入ができる。


資本主義以後の世界―日本は「文明の転換」を主導できるか

資本主義以後の世界―日本は「文明の転換」を主導できるか

日本がこの20年で失ったものは、世界が恐れた日本式経営だと著者は主張する。日本式経営とは、終身雇用という信頼で結ばれた経営者と従業員、契約や訴訟に頼らない信頼で結ばれた取引先。それが新自由主義グローバル資本主義で破壊されてしまったと。なんだ、あれで良かったのか。私もそう思ってたよ。


この本はお勧めできない。読むと暗い気持ちになるぞ。ペンは剣よりも強し、というのはいまのマスコミには通用しない。新聞やテレビがけっしてネタにしないのが皇室(皇室は怖くないが右翼が怖い)、同和、宗教、電力、検察、警察、大手芸能事務所...暴力・権力・金の前ではペンは簡単に折れる。これを一つ一つ実例で説明されるとヘコむヘコむ。我々はなんという時代に生きているのか


チヨ子 (光文社文庫)

チヨ子 (光文社文庫)

BOOKOFFの半額セールだかで買った短編集。いやはや、これはぜいたく。それぞれ長編が書けるような題材をぐっと凝縮した短編集。ふだん本をあまり読まない人が旅行に持っていくのにお勧めの一冊

*1:忘れた