「Thank you」と「おおきに」と「ありがとう」の狭間に

以前、こんな記事を書いた*1。論旨は「英語の『I love you』は日本語の『愛してる』よりもっと軽い言葉」だ。きょうのお話、結論を先に言っておくが

  英語の「Thank you」は日本語の「ありがとう」より軽い言葉だ

たとえば、この場面を思い浮かべてくれ。

  タバコ屋の婆さんと自分の会話*2

  自分「セブンスターください」

  店員「300円です」

  (お金を店員に渡し、セブンスターを受け取る)

  店員「ありがとうございました」

  自分「○○○○○」

この最後の○○○○○はなんだ?アメリカ人はまちがいなく「Thank you」だ。国内でも関西の人がこのシチュエーションで「おおきに」と言うのを聞いたことがある。だが、関東では無言かせいぜい「どうも」だ。「ありがとう」と言う人はほとんどいない。たとえば

  「お客さん、WBC日本優勝を記念してラッピングしてみました」

とか

  「本日はニコチンとタールが50%増しになってます」

と言われたら「ありがとう」と言う。だがそれはセブンスターを受け取ったことではなくラッピングや増量に対して言うのであって、自分がきちんと対価を払ったセブンスターを受け取ったことについてのお礼ではない。
こんなことを言うと、なにかと自分の国を卑下するのが好きな人は「だろ、やっぱアメリカ人はフレンドリーだよ」とか、どうでもいいことで東京に敵意を燃やす関西人は「だから東京の人は冷たいんや」と言うだろう。そうではないのだ。関東の人間からするとこんなイメージである。

  自分「セブンスターください」

  店員「300円です」

  (1000円札を出す)

  店員「ありがとうございました」

  自分「ありがとうございました」

  店員「お釣りはいらないよね」

  自分「もちろんですとも」

つまり「ありがとう」は謝礼を要求されても断れないくらいに深い感謝を示す言葉なのだ。だからうっかり使えない。そこで無言と「ありがとう」を補完する言葉として「どうも」とか親しい人なら「サンキュー」とか別の言葉で代用する。「Thank you」と「おおきに」と「ありがとう」では感謝の深さが違う。あんまり自信がないけど、きっとそうだ。
以上、「I love you」につづいて「Thank you」の考察をしたが、同じような微妙なちがいが他の日常語にもあるはずだ。「Good morning」を使う時間帯と「おはよう」を使う時間帯の違いとか、「FUCK YOU」と「くそったれ」を言ったときの相手の攻撃の強さとか。だが、これをシリーズ化できるほどの教養が私にないのは言うまでもない