壮大な伏線(後編「雑誌の取材」)

もう一つ長い伏線がある。このタイトルを見ただけでわかったあなたはかなりの通だ、いや末期的な中毒だ。*1田崎監督の最終回act8での女性秘書とレイの会話である。

     秘書「それと今日は雑誌の取材も入ってるからそのつもりでね」

     レイ「取材って?」

     秘書「理想の親子っていう記事ですって」

この秘書の言葉にレイが猛反発し、レイの口から父親像が次々と明かされる。我々は「ひでえ父親だな」とレイに深く同情し、取材をドタキャンしたことも、カートを運んできた女性従業員を縛ってクローゼットに隠したことも*2忘れ、レイとまことの逃走劇を応援する。次にレイの口から父親が語られるのはact17である。

     「父は母が死んだときも仕事をしていたような人です」

これはレイと美奈子が教会で遭遇する理由付けだけのシーンであり後の展開に関係ない。そもそもこの回はセーラーヴィーナスの変身シーンが初めて見られる回なのでそれどころではないのだ。
その4ヶ月後、ついにレイパパが画面に登場する。act33では視聴者の予想どおり、見事なレイパパぶりを見せつける。これでこそ火野レイの父親だ。ところが、そのイメージはact34の秘書のセリフで一変する。

     「なんとかお嬢様とうまく話したくていろいろ考えたみたいですよ。世論調査だとか雑誌の取材だとか」

act4で

     「友達とか家族とか、いつかきっと壊れるから。いままでずっとそうだったし」

と言ったレイの成長物語はact23で完結したかに見えたが、まだ続いていたのだ。そしてこの回でも終わらない。「パパ!ごめんなさい」と叫んで父親の胸に飛び込むような安直な展開を小林靖子は書かない。そう「たぶん、もう少し時間が経ったら」なのだ。なぜなら人は「そんな急には変わらない」からだ。自分の本当の気持ちに向き合うことさえできれば、あとは時間だけの問題だ。火野レイはどこまでも意地っ張りでいいのだ。そして火野レイの父親も意地っ張りでなければならない。
私はact8は少なくとも10回は見たので秘書のセリフでジーンと来たが、この5ヶ月に渡る伏線、テレビ視聴だけの人は覚えていただろうか。

*1:おまえもな

*2:かどうかは謎であるが