こんなことがあった

帰宅途中の都営新宿線。地方の方に説明をしておくとこの都営新宿線、名前に「新宿」が入っているからといって油断してはならない。千葉県の本八幡を出発して新宿に向かいそのまま京王線にアクセスする。いちばんの特徴は都内を走る地下鉄の中ではもっともグレードが低い。なにしろ東京のコロンビア、関東のカンボジアである江戸川区を横断する*1田園都市線なんかは車内の吊り広告にあらゆるファッション誌が並ぶ。だが都営新宿線は「多重債務でお困りの方へ」とか「利子を払いすぎていませんか」とか広告がヤバい。吊り広告も良くて週刊ポストだ。ただヤクザやチンピラ、怖そうな外国人も見かけない。こういう人たちは金の臭いのしないところには近寄らない。
きょうは運良く座れて本を読んでいたら、どこかの駅についたところで「ゴキッ」といやな音。目を上げると床に赤いシミが広がる。だれかが頭を打って血が流れていたらホラーだが、女性がワインの瓶を床に落とした。悪いことにそのワインの瓶、一升瓶くらいある超大型サイズ。細くなっている部分が折れて床に転がっている。その女性はさっさと降りてしまった。私とは反対側の座席の方だったので被害はない。ポケットティッシュで拭くにはワインの量が多すぎる。車両の加速と減速でワインが前方と後方にどんどん広がっているよ。みんな知らんぷりではないのだ。量が多すぎるのだ。
と、ワインの落下地点からはかなり前方にいた、絶対に友だちになりたくないタイプの人。髪が長めで黒縁の眼鏡をかけて、そうだな、宅八郎タイプの神経質そうな人。わかりやすく言うとStreamKatoさんを暗くしたような感じだ*2。彼がティッシュを出して床を拭き始めた。車両の前方から落下地点に向かって床を拭きながら半怒りで移動してくる。一個を使い切ったら、新しいティッシュを出して半怒りで作業を続けている。
このお宅青年の姿に動かされ、私の斜め向かい、落下地点にいちばん近い女性も床を拭きだした。これはもう私も参加しないわけにはいかないだろう。幸い新品のポケットティシュを持っているので、中央から座席側に向かって拭きながらティッシュに染みこませた。中央に落ちている瓶の破片はあぶないので端に寄せなければ。

  M14「なるべく端に寄せましょう」

  女性「はい。でも向こうまで流れて行っちゃったんです」

  M14「しかたないですよ」

  女性「しかたないですね」

手持ちのティッシュでできる範囲の作業が終わって席につく。見ると後方でも床を拭いている人がいる。うーん、みんな偉いぞ。でもこの路線はここから終点までは降りる人ばかりなのでほどほどで大丈夫だぞ。私のとなりのおじさんがカバンからウェットティッシュを出した。おじさん遅いよ。しかもウェットティッシュ。そのおじさん、女性にそれを差し出し「これで手を拭いてください」と私にも。そうなんだよ、こういうのは最初にやるのが恥ずかしいだけで、なにかしたいという気持ちはみんな持ってるんだ。たとえ江戸川区を走る路線でもだ*3
すると半怒りのお宅青年、座席の下にあったティッシュやら瓶の破片をぜんぶ回収して回っている。なんだよこいつ、すげえな。駅に着いて、両手にゴミを持った半怒りのお宅青年が降りようとしたとき、向かいの女性が「ありがとうございました」と声をかける。お宅青年は半怒りのまま振り向かずに降りていった。やっぱり日本人の民度はすげえじゃないか。見直したぞ江戸川区。終点の本八幡に着いて、私は駅員を探して「6両目でワインの瓶を割った人がいて*4、みんなで掃除しましたけどまだ汚れています」「ありがとうございます」。お礼は半怒りのお宅青年に言ってくれ。
これでまたちょっとだけ徳を積んだ私。もう満期になっただろうか。これで北川景子の招待状が来るだろうか*5

*1:江戸川区に喧嘩を売ったな

*2:ぜんぜんわかりやすくない

*3:だから江戸川区に喧嘩を売るのはよせ

*4:駅員に教えられるように何両目かをチェックしておいた

*5:そういう考えを徳とは呼ばん