10月に読んだ本

木暮荘物語

木暮荘物語

木暮荘というボロいアパートの住人、またはその知人それぞれを主人公にした連作短編集。なにか事件が起こるわけではないが、自分がかかえたトラブル、悩みをその人なりの方法で解決したり諦めたり。こういうなんでもない話をぐいぐい読ませ、登場人物が生き生きと躍動する。この構成力、筆力の半分でも北川景子のドラマの脚本家にあれば...


展翅少女人形館 (ハヤカワ文庫JA)

展翅少女人形館 (ハヤカワ文庫JA)

いまでないいつか、ここでないどこかの地球。世界中で人間の代わりに球体関節人形が生まれ人類は絶滅の危機になる。わずかに生まれた人間の子どもは人類の希望として珍重される。そんな3人の少女がピレネー山脈の奥深くにある修道院に集められ暮らしている。解説を読んだらエロそうだったので、その3人の少女が夜ごと愛し合う話かと思ったらぜんぜん違った。しかも私の趣味と合わないゴシック調のストーリー。球体関節人形が好きな人はどうぞ。


怪談実話系3 書き下ろし怪談文芸競作集(MF文庫ダヴィンチ) (MF文庫ダ・ヴィンチ)

怪談実話系3 書き下ろし怪談文芸競作集(MF文庫ダヴィンチ) (MF文庫ダ・ヴィンチ)

このシリーズを全巻読もうと思って買ってきた。3は、先月に紹介した「女たちの百物語」の参加者が打ち上げのために1泊した温泉宿で遭遇した怪異を、それぞれの作家の視点で書いたもの。感じる人、感じない人、見える人、見えない人、それぞれの立場から同じ一夜を書くという企画が斬新。でもたいしたことが起こったわけではないので期待しすぎると損をするよ。


五色沼黄緑館藍紫館多重殺人 (講談社ノベルス)

五色沼黄緑館藍紫館多重殺人 (講談社ノベルス)

なんか、この人の本を買っちゃうんだよね。最初は面白いのだよ。ところが終盤で物語が破綻してハチャメチャになる。それがこの人の個性なのだが...もう絶対に買わないから。


NOVA 5---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫)

NOVA 5---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫)

今月の収穫はこれ。いまを代表するSF評論家である編者による書き下ろしSF短編集。基本的にSFは苦手なのでこのシリーズがあるのは知っていたが、帯に「上田早夕里、伊坂幸太郎参戦」と書いてあったら読まないわけにはいかないだろう。以前に別ジャンルをどんどん取り込んで勢いを増したミステリーと、純粋さを求めるあまりジャンルとして縮小してしまったSFという内容を書いた。ところがこの短編集、「ミステリー短編集」と言われればミステリーファンは納得する。「ホラー短編集」と言われてもホラーファンは「たまにはこういうテイストもいいよね」と納得する。もしコアなSFファンがこの短編集をSF小説として受け入れることができるのなら、日本のSFはいままでとまったく違う、ジャンルミックスの文学として飛躍することができる。豊かな想像力、冒頭で提示された世界観から逸脱しない論理構成力。しかも主人公がやたら内省的。ここがポイント。フォークソングと歌謡曲とロックが融合してJ-POPになったなら、ミステリーとホラーとSFが融合してJ-NOVELになってもいいんじゃないか。


日本語の難問 (宝島社新書)

日本語の難問 (宝島社新書)

日本語として正しい言い方はどっち、というハウツー物はたくさんあるが、これは平安や万葉までさかのぼって、その言葉が本来持っていた意味やニュアンスを解明する。「日本語には主語はない」「英文法になぞらえた国文法から脱却しよう」と主張する人は少なくなく、過去に紹介した。筆者が考える日本語の基本文は

  1.ナニガドウスル (主格+動詞)

  2.ナニハドンナダ (題目+形容詞or形容動詞)

  3.ナニハナニダ  (題目+名詞+断定の助動詞)

  4.ドコニナニガアル(主体+客体+あるorない)

の4つであると。2と3の「題目」は主語というより述語が述べている題目である。つまり述語ありきなのが日本語であると。例をあげると

  1.北川景子が焼肉を食う

  2.安座間美優は長身だ

  3.火野レイはセーラーマーズだ

  4.洞窟にダークキングダムの基地がある

カメラのCMにあった「私にも写せます」の主語は何か? 学校の文法だと「私」になるが、この文は「私にも写真を写す能力があります」になるので、上の4に当たる。すると、この文の主語(そもそも主語を考える意味さえないのだが)は、省略されている「写真」。つまり「私にも(写真が)写せます」になる。


ショコラティエの勲章 (ハルキ文庫)

ショコラティエの勲章 (ハルキ文庫)

作者の初期の作品で、前作はパティシエが主人公だったが、これは和菓子屋の店員。ただ彼女は狂言回しで、実際の主人公は近所の老舗の洋菓子屋のショコラティエ。客からの不可思議な注文や日常のちょっとした謎を二人が解決する。娘の北海道時代の友人がパティシエの専門学校を卒業して、札幌では有名な店に就職したと思ったら3ヶ月で辞めちゃったんだよね。パティシエの話を読むと胸が痛む。