衣服の謎

札幌への引っ越しの荷物をまとめているときである。なにしろ千葉から札幌への引っ越しは2泊3日だ。現地の搬入は、荷物を運び出した翌々日なのだ。当然、荷物選びも慎重になる。4月初旬ともなれば千葉県はけっこう暖かい。冬物の衣料はどれも古くなったので「どうせ向こうで買うから」と捨てていった。さて現地に着くと連日10度以下、我が家の感覚では冬。さっそく冬物の衣料を買い求める必要が出てきた。ところが、どこに行っても売ってないのだ。すでに店は春物。道を行く人を見るとコートやジャンバーを来ている人などいない。木枯らしが吹く街を半袖で歩いている人、なかにはタンクトップで歩いている女性もいる。恐るべし北海道。みんな寒さに対する耐性が本州の人の比ではないのか。地球が温暖化ならぬ氷河期が訪れたときは、生き残るのは彼らか、と思った。だがよくよく見ると年配の人は冬の装いをしているし、タンクトップの女性の腕は鳥肌が立っている。いったいどうなっているのだ。
かなり探し回って、スポーツ用品店でウィンドブレーカーを見つけて買い求めた。店の主人に冬物が置いてない理由を聞いたところ、札幌の春夏のファッションは東京基準なのだそうである。以前、「気候の謎」で札幌の4月の平均気温は、東京の2月であると書いた。この気温差には関係なく東京で着ているものを着るのがおしゃれだと店主は言う。まあ、これは極論なのだろうが、確かに薄着の若者は寒そうである。
だが、この春先の異常なまでの薄着の謎は、翌年に身をもって知ることになる。札幌では9月がもう晩秋というか、日によっては初冬。12月の下旬からあたり一面は雪になる。4月になって雪が無くなると、たとえ気温が何度だろうと気分は春なのである。そして9月から半年に渡って厚着をしていたので、重いコートを脱ぎたくなる。翌年、私の一家も4月に一斉に薄着になり、もちろん家族全員が風邪を引いた。