「ストロベリーナイト」(後編の前編)

正月が終わり私は一人で東京に引っ越した。どうせ1年間、それも寝に帰るだけの部屋。会社から歩いて20分のワンルームマンションを借りた。家財道具は布団、机、パソコン、テレビ、やかんだけ。この部屋、困ったことに一日中、陽が当たらない。休日に外出して「ああ、今日はいい天気だなあ」と部屋に戻ってくると蛍光灯をつけるくらいに陽が当たらない。住所は東京都の中央区なのだが馬喰町の問屋街のはずれに位置し土日はほとんど人が歩いていないので、静かというか淋しい場所だった。だが、こういう環境に置かれると私のような筋金入りのインドア派のヲタクは強い。3連休の間、つまり金曜日の退社時から月曜日の出社時まで誰とも口をきかなくても無問題。それどころか土日の2日間くらいならコンビニに行く以外は部屋に閉じこもっていてもまったく苦痛でない。無人島に漂流したら半日で死ぬだろうが、ヲタクは大都会の孤独にはめっぽう強い。半年が経って私は不安になった。

  ぜんぜん淋しくない。むしろ楽しい

以前から薄々感じていたことが確信に変わった

  俺には家族なんか必要なかったんだ。家族にも必要とされてないけど

そんな私の心情などどうでもいいのだが、私はいつのまにか風邪を引かなくなった。札幌に行くまでは年に2、3回はけっこうひどい風邪を引いていたのだが、札幌にいた3年間と東京での1年間は寝込むような風邪を一度も引いてない。とくに逆単身赴任の1年間は食事がほとんどデンプンと脂肪という非常に偏った食生活にもかかわらずだ。なぜだ、なぜこんなに健康なんだ。私はわかった。風邪のウィルスがどこから来るのか。

  風邪は満員電車で感染する

思えば札幌の通勤電車は空いていた。新聞を広げて読んでもだいじょうぶだ。単身赴任中は雨の日以外は電車に乗らない。つまり風邪の予防は満員電車を気をつければいいのだ。翌年から私は冬になると電車の中で呼吸をするのをやめた
(つづく)


嘘、嘘。マスクをすることにした*1

*1:やっと電車マスクが出てきて、ここからやっと書評になる