壮大な伏線(前編「プリンセスの正体」)

実写版美少女戦士セーラームーンの醍醐味はレオチラだ。じゃなくて伏線だ。なにしろ半年以上引っ張ってる伏線ばかりなので、本来の対象年齢である小さいお友達はぜったい理解できないだろう。シリーズ前半の中心を成すのが「プリンセスの正体」である。
「セーラーV=セーラーヴィーナスがプリンセスの影武者であること」は原作・アニメにもあったものの実際にはほとんど出てこなかった。実写版ではこれがact25までの間に頻繁に語られる。なにしろ記念すべき第1回のオープニングはセーラーVだ。

     act 3  セーラーVがプリンセスなのではとぬいぐるみが語る

     act 7  セーラーVがセーラー戦士やタキシード仮面の関係者であることが判明

     act 8  芸能人・愛野美奈子ゾイサイトの音響攻撃を見破りイベントをドタキャン*1

     act11  セーラーV=愛野美奈子=プリンセスであることが美奈子陣営*2から発表

     act12  前髪が妙に短いプリンセスが出現

     act17  超長い変身シーンによって高飛車なセーラーヴィーナス登場。レイに逆ギレ

     act18  高飛車なヴィーナスにレイが疑問を持つ*3

     act19  自分の居場所をネットで告知。案の定、ネフライトに踏んづけられる

     act20  救助に来たレイにまたもや逆ギレ

     act22〜23  参戦するが役立たず。最後に「戦士の力」を言い残して去る

     act25  囮になるため現われるが失敗。本物のプリンセスが覚醒

このように本物のプリンセスが衛の彼女やバレンタインデーのチョコで右往左往している間に、美奈子によって前半の主要ストーリーである「プリンセスの正体」の伏線が次々と張られていくのである。この間の展開は原作を知らない人はどのように見たのであろう。どの辺で美奈子が偽プリンセスであることに気が付いたのか興味がある。逆に自分が原作を知っていることが残念だった。だがプリンセスの正体を知っていると、次のact18のような会話で伏線が張られていく様が非常に面白かった。

     「あなたはいつもシェーラームーン*4たちと一緒にいなきゃだめ。わかったわね」

美奈子は敵の注意を自分に引きつけなければならないが、マーズをはじめセーラー戦士にはムーンを守ってもらわなければ困る。このように美奈子の苦しい立場と悲壮な決意がわかるセリフがact11以降たびたび美奈子の口から語られ、物語に緊張感を与えている。ヴィーナスが髭武者じゃない影武者であるという原作の設定は、実写版を見るまで忘れていたほど扱いが軽かった。ほとんどの人が結末を知っているこの設定をシリーズ中盤まで引っ張り、影武者側の事情や心情を美奈子サイドから語らせるようにしたのが小林靖子の脚本の巧みさである。
(つづく)

*1:もちろん視聴者は愛野美奈子セーラーヴィーナスだとわかっているのだが物語的にはこの時点では「ただ者でない芸能人」である

*2:美奈子陣営とは愛野美奈子とぬいぐるみである。社長さんは含まない

*3:もちろん疑問点は高飛車であることではないよ、敵を引きつけるかのように姿を現わすことだ。そんなことはわかってるか

*4:小松変換 セ→シェ