真冬の映画まつり「虐殺器官」

本を読むのも早いが忘れるのも早い。これは私の欠点だと思っていたが、小説がベースになっている映画を見るときに威力を発揮する、神が私に与えてくれた能力だと思うようになってきた。伊藤計劃の作品をアニメ化するプロジェクトの最後の一本。だが順番ではこれが最初でなければならない。「屍者の帝国」はともかく、「ハーモニー」は「虐殺器官」の続編というほどではないが、これの後の世界を描いた物。なんで映画化がこうなったかというと、「虐殺器官」を作っていた会社が倒産して制作が頓挫してしまった。これを別の会社が引き継いで1年遅れで公開の運びとなった。
屍者の帝国」と「ハーモニー」は非常に今風のアニメ作品だった。鉄腕アトムエイトマンで育った私が見ると驚くほどきれいなんだが、その反面、小説のイメージとの差がなんだかなーとも思った。今回の「虐殺器官」、CGは多用されているものの、最近のアニメに慣れている人は細部の描き込みで物足りなさを感じるのではないだろうか。だがそういう点も含めた全体のイメージが3本の中でもっとも原作の雰囲気に近い。アニメ化プロジェクトの最後がこの作品であったことが原作のファンには幸運であったと思う。ただ最後の方はどうしても説明が多く、原作を読んでいない人が見ると退屈になるかもしれない。だがこれは説明してくれないと理解できない作品なので、原作を知っていると単調な絵面ながらも「うんうん、そうそう」と入り込めるのだが、初めてこの作品に触れた人だとクライマックスがこれかよ、と思うかな。ということで、原作を読んだ人にはお勧めする。とくに小説に出てきたあのメカはこういう姿なのかとスクリーンに現われたときは感涙もの。またエンドロールの最後の方で、制作会社が破綻して...と本作の公開までこぎつけた経緯が出てきて関係者への感謝の気持ちでいっぱいになった。くれぐれも原作を知らない人にはちょっとキツい映画だよ。