12月に読んだ本

今年度版の「このミステリがすごい」が発行されて順位はともかくベスト10あるいはベスト20に入っている作品は納得のラインナップ。「本の雑誌」の2015年のベスト10はあいかわらず不思議なラインナップ。だが座談会形式で推薦者がほかのメンバーを納得させるとランクインできるというものなので読んでみたいと思わない本でもランクインしている理由が理解できる。どちらも金を払って本を読んでいる読者が選んでいるのが芥川賞直木賞レコード大賞紅白歌合戦と違う点。そう考えるとテレビ朝日テレビ東京が紅白の裏番組を作ったら面白いと思うのだが。もはやどっちがおまけかわからなくなったCDではなく、楽曲配信の大手数社の順位を使いランキングを決める*1。そこからCDのおまけや複数購入特典がある曲は除き、紅白に出場していない歌手、さらに肉声で歌える歌手*2だけを出場させる。これだと家入レオ、chay、秦基博藍井エイルクマムシとかが入ってきて、Ακβやジャニーズ系は生歌の可否を別にしてもランク外なわけよ。あまりテレビの歌番組を見たことがない人もドラマの主題歌やCM、あるいは街でよく聞く曲をどんな人が歌っているのか見ることができるわけだ。そんな番組は見たい人が少ないかな。私は見たいけどなあ。

左翼も右翼もウソばかり (新潮新書)

左翼も右翼もウソばかり (新潮新書)

「アベは戦争を始めようとしている!」とか左翼が叫んでいるが、自分の願望(首相に戦争をして欲しいのではなくて、首相が戦争したいと思っていて欲しい)がいつのまにかその人の中で事実とか信念になってしまう。それは右翼も同じであると。以前に読んだ本で、いまや「右翼と左翼」、「保守と革新」という分類が無意味になっている、しっくりくるのは「現実主義と理想主義」だと書いてあり、うまいことを言うなと感心した。それなら自民党は現実主義なので民主党共産党は理想主義であり、そうならないと存在価値がない。その点でレンホーが男性の育児休暇を反対しちゃいかんと思うのだよ。


4日間集中講座 世界史を動かした思想家たちの格闘~ソクラテスからニーチェまで~

4日間集中講座 世界史を動かした思想家たちの格闘~ソクラテスからニーチェまで~

近代の歴史を振り返り、歴史の大きな分岐点で思想家たちは何を考え何を主張したか、ヨーロッパの近代史と思想史を平易に解説したなかなか良い本。当時の思想家は民主主義に反対した人も多かったそうだ。大阪の住民投票を見ると納得できる。かといって民主主義に代わる制度がいまのところ無いのも事実。


さらば、資本主義 (新潮新書)

さらば、資本主義 (新潮新書)

現代人の不幸は資本主義、そしてその正当性を訴える経済学者の存在であると。資本主義により経済が成長するのではなく、別の要因で経済が成長している間は資本主義が成り立つ(うろ覚えなのでまちがっているかも)。たしかに「価格破壊」って誰の幸せにもなってないよね。


朝が来る

朝が来る

以前に記事にしたので省略。この本、3cmくらいあるのに帰りの電車2回プラスαで読破できた。よく見たら全文が改行されている。なので枚数のわりに文字数が少ない。実話怪談ではおなじみのスタイルだが、一般の小説では珍しい。


「正義」は決められるのか?

「正義」は決められるのか?

列車が暴走して5人が作業をしている場所に向かっていて作業員が気がついていない。ポイントを切り替えて1人しか作業していない引き込み線に電車を入れて1人の犠牲で5人を救った。これは倫理的に正しいのか。裁判の形式で、有罪、無罪それぞれの証人が過去の哲学者を引き合いに出して証言する。中高生でも読めるくらいに平易に書いてあるので高校の倫理の教科書はこれ1冊でいいくらい。


怪談実話系 妖 書き下ろし怪談文芸競作集 (文庫ダ・ヴィンチ)

怪談実話系 妖 書き下ろし怪談文芸競作集 (文庫ダ・ヴィンチ)

寝る前の読書。このシリーズ、どんだけあるんだよ。


あなたが消えた夜に

あなたが消えた夜に

「教団X」を抜く本があったとはなあ。私はこっちのが好きだ。連続殺人事件を追う主人公の刑事は子どもの頃の体験で心に闇を抱えている。本庁から来た相棒の女性刑事は言動がいちいち変わっている。犯人が残した手掛かりもたくさんあるのに犯人の背中が見えない。目撃者の証言から「コート男」を追う第一部、事件がさらに迷走する第二部、犯人の独白の第三部。第三部まで読むと、犯行の動機などわかるはずもないのがわかる。アンフェアだと言う読者もいるかもしれないが、これはミステリーではないのだ。だって中村文則だから。そしてなぜか爽やかな読後感のエピローグ。このコンビの続編を読みたい。でも絶対に書かないだろうな。中村文則だから。


けっこう厚い本だが、このテーマでいったい何が書いてあるのだ? 現代人は退屈を苦痛に感じる。身体的も経済的も健康な人なら、最大の苦しみが退屈と言っても良いくらいだ。なぜ人間は退屈を感じるのか。著者の思考は動物の進化、人間社会の成り立ち、経済、道徳、あらゆる分野に飛んでいく。なにかの賞をとった本らしいが、哲学の入門書として広く浅くではなく、単一のテーマでどこまでも突っ込んだ本として名著。


きのうの影踏み (幽BOOKS)

きのうの影踏み (幽BOOKS)

著者初(だと思う)のホラー短編集。死というのは怖い以前に悲しいと思える話。

今月、中村文則辻村深月のように狭い意味の文学の領域に足を踏み込んでいる人がいる。その対極にライトノベルとか「探偵の探偵」の作者のような人がいる。著作を読むと明らかに違いがわかる。これってなんだろうと思っていた。今月、二人の作品を読んでわかった。登場人物の説明が最小限なのだ。もちろん年令とか身分とか外見は書いてある。だが、その人がどういう行動原理でどういう思想の人かは書いてない。あくまで人物の言動を通して読者が理解するようになっている。もちろん読者の全員がまったく同じイメージを持つかはわからないが、そのイメージがあると物語中の人物に共感するなり反感を持つなりしても読者はいちいち理解する。この人なら当然そうするだろうな、こう思うはずだよと。それが物語に感情移入するということだと思う。ところが反対側にいる作者の物語は人物の説明が長い。主人公がどういう人なのか、その言動はどういう思想から出たものなのかの説明が長い。読者がイメージを作る前に説明をされるので行動原理を理解しないまま読み進めることになり、読者が物語に入っていけない。

恒例の2015年の私のベストを順不同で。

  その女アレックス(ピエール・ルメートル)

  約束の森(沢木冬吾)

  無限のビィ(朱川湊人)

  あなたが消えた夜に(中村文則)

  朝が来る(辻村深月)

  21世紀の自由論(佐々木俊尚)

  暇と退屈の倫理学(國分功一郎)

すげえ中途半端な数だが、このつぎの段階を入れると数が多くなりすぎるので

*1:http://mora.jp/ranking?genre=j&term=yearly&month=curMonth&year=2015&period=yearly

*2:あたりまえのはずだが、いまはそうでもない