シーン25。今回は順番がめちゃめちゃだ。ここもact46のひとつの山場、神社での美奈子とアルテミスである。放送のとおりなのだが、最後の1行。
美奈子の目から涙が流れている。
「流れた」でもなく「流れる」でもなく「流れている」。つまり流れ出す瞬間は誰も、少なくとも視聴者にはわからない。ふと気付くと美奈子が泣いている。いや、正確には泣くのではない。あくまでも目から涙が流れているのだ。
放送ではどんなカットだったかおさらいしよう。
(アルテミスの全身)
アル「愛野美奈子は」
(美奈子の顔を左下から)
アル「君が思っているほど弱い存在じゃない」
(アルテミスの全身から顔にズームイン)
アル「ぼくは愛野美奈子が好きだよ」
(美奈子の顔を左下から。BGMスタート)
美奈子「アルテミス」
(美奈子のアップ。つぎにアルテミスを見下ろす美奈子の全身に引き。そこから美奈子の顔にズーム)
アル「君だってほんとうはそうだから歌い続けてきたんじゃないのか」
(美奈子の背中越しに歌う子供たちのショット。つづいて美奈子を横からバストショット)
アル「生きて」
(アルテミスのアップ)
アル「欲しいんだ」
(アルテミスの顔をアップ。「ヒョイ」と効果音)
(美奈子を下から俯瞰。背中から前にパン。横顔が見えたところで顔のアップ。目に涙)
概ね間違ってはいない。何度もカットが切り替わるわりに美奈子のショットがいつも左下からの俯瞰なのは、いかにもこの監督らしい。私が監督で、台本の最後の1行を生かすならこんなカットにしたい。
アル「ぼくは愛野美奈子が好きだよ」
(位置関係は遠方に子供。子供の方を見て背中を向けた美奈子。その背中に話しかけるアルテミス)
美奈子「アルテミス」(アルテミスを振り返らず正面を向いたままの美奈子を背後から撮す)
(BGMスタート。アルテミスのアップ)
アル「君だってほんとうはそうだから歌い続けてきたんじゃないのか」
(美奈子の背中と子供たちのショット)
アル「生きて」
(アルテミスのアップ)
アル「欲しいんだ」
(アルテミスの顔をアップ。効果音なし)
(子供の方を見る美奈子の背中。つづいて美奈子のアップ。微笑む美奈子。目には涙)
つまり美奈子はセリフ「アルテミス」の少しあとから涙が流れているのだが、カメラは美奈子の背中しか写さない。最後に美奈子のアップになると涙だけではなく、まるで憑きものが落ちたように晴れやかな微笑み。美奈子はアルテミスに会って以来、初めて自分を許したのである。そして彼女にとっては妖魔より恐い自分の病気に正面から向き合う勇気を得たのである。問題は、この時点の小松彩夏にこの演技ができるかだ。
(つづく)