スーパーマン リターンズ(その2)

前作のスーパーマンはまさに強いアメリカの象徴だった。空を飛び、巨大な岩を持ち上げ、最後は地球を逆回転させてしまうスーパーマンはつねにアメリカを背負って戦っていた。星条旗が必ず出てきて、スーパーマンⅡでは大統領も出てくる。今回のリターンズではこのアメリカ色は一掃されている。冒頭にスペースシャトルや野球場が出てくるくらいで、この舞台がバンコクでも話の筋にまったく影響ない。
強いアメリカの権化だった前作のスーパーマンは一点の迷いも悩みもなく、ただひたすらアメリカの正義のために戦っていた。今回のブランドン・スーパーマンは最初から悩みまくりだ。惑星クリプトンの残骸が残っているというニュースを聞いて、遠い故郷まで同胞を探す往復5年間の旅に出る。結局なにも見つからず失意のまま地球に戻ってきたケントに歳月が追い打ちをかける。愛するロイスには子供ができて男性と3人で暮らしている。さらにピューリッツア賞を受賞することになったロイスの記事は

     我々はなぜスーパーマンを必要としないか

クリプトンが完全に消滅していたばかりか、留守の間に地球にもスーパーマンの居場所は無くなっていた。以前、ヒーローの孤独と哀しみについてスパイダーマンのレビューで書いた。スパイダーマンはヒーローであることをやめれば普通の人として生活できるが、スーパーマンは異星人だ。地球人が必要としてくれること、ヒーローであることが彼の存在条件なのだ。地球人が強いスーパーマンを必要とするように、スーパーマンにも弱くて愚かな地球人が必要なのだ。
失意のスーパーマンは夜にロイスが暮らす家に飛んでいってベランダから透視能力で幸せに暮らす家族を見る。おいおい、それではストーカーだ、のぞきだよ。もう自分は誰からも必要とされないのか、悩むスーパーマン。まさか20年後にこんな展開になるとは故リーブ氏も思わなかっただろう。スーパーマンは地球が見渡せるはるか上空に浮遊し、人々の声に耳をかたむける*1。世界は厄災に満ちている。世界中から助けを求める人々の声が聞こえる。スーパーマンは地上に舞い戻っていった。
翌日のデイリープラネット社。世界中のニュース番組が自国にスーパーマンが現われたことを告げる。コンビニ強盗から家の火事まで、スーパーマンは自分のアイデンティティを確かめるようにどんな小さな事件や事故も見逃さず一晩中、世界を飛び回っていたのだ。眠らなくていい分、スーパーマンスパイダーマンより活動時間が長い。そんなニュースをロイスは興味なさそうに冷ややかに見る。ケント=スーパーマンの心の隙間は埋まらない。
「M14の野郎、うっかり読んだらネタをバラしてるじゃないか」・・・だいじょうぶ。ここまでが3分の1。しかも私が書いたのは今回の新作の底部を流れる重低音の伴奏であり、主旋律は最新のSFXを使って21世紀に甦ったニュー・スーパーマンの活躍である。ぜひ大きいスクリーンで見たい名シーンがてんこ盛りだ。って、いま調べたら昨日でロードショーは終わってました。
(つづく)

*1:空気がないので音は伝わらないのは言いっこ無しだ