いつかのメリークリスマス

いまから5年前の12月24日、私はまだ札幌にいた。その日は女房がいなくて私と娘と二人で外食をすることになっていた。当時、娘はまだ小学生。娘になにが食べたいか聞いた。

     「吉野家の牛丼!」

そう、女房は丼物が嫌いなので子供にとって牛丼は未知の憧れの食材だったのだ。雪の降る夜、吉野家に出かけた。店内に入ると人はまばら。おじさん数人と、若い兄さんの二人連れ。私は大盛りを頼むと娘は

     「並。つゆだく」

どこでこんな用語を覚えたのだ。二人で牛丼を食べていると周りの視線が突き刺さる。

     「なに?あの親子?」

     「クリスマスイブにあんな小さな子を吉野屋?」

     「ケチねえ」

     「きっと失業中なのよ」

ひ〜〜〜。子供が牛丼を食いたいと言ってるから来たのだ。そんな目で俺を見るな。って被害妄想だ。だいいち店内に女性客はいないじゃないか。
食べ終わってレジに行く。決められたセルフしか言えないアホ店員が私に聞く。

     「会計はご一緒でいいですか?」

馬鹿者、どこの世界に小学生の娘と牛丼をワリカンにする親がいる。

     「頼むよ、パパおこづかいがないんだ。今日はワリカンにして。今度おごるからさ」

     「しょうがないなあ。だから無駄遣いしちゃだめって言ったでしょ」

とでも言うと思ったか。いや、私はやっぱり失業者に見られていたのか。