沢井美優「少林少女」

この映画の感想をネットから拾うと酷評ばかりだ。いや、酷評しかない。だが沢井美優初の全国ロードショー作品がこれではあまりにも悲しい。ここは、私ががんばるしかないではないか。この映画の正しい楽しみ方を書くしかないではないか。なお、例によって私のレポはあらすじにはいっさい触れないので、この連休中に観に行こうと思っている人が読んでもだいじょうぶだ。だって、あらすじらしいあらすじなんてないもん*1
まず、この映画は見る人を選ぶ。少林少女を観ると失望する人はつぎのタイプだ。

  【A群】少林少女を観ると失望する人

   1) 少林サッカーみたいな映画を観たい人

   2) シリアスなカンフーアクション映画を観たい人

   3) ハチャメチャなお笑いアクション映画を観たい人

   4) 登場人物の人物設定や行動原理にこだわる人

   5) 劇中のイベントにはストーリーの中での必然性を求める人

   6) その他、完成度の高い映画を観て思わずうなりたい人

とにかく、この中の一つでも期待している人は別の映画に行こう*2。とくに1)、少林サッカーとはまったく別物。少林少女ではラクロスは小道具でしかないし、クライマックスはラクロスの試合では無いよ。いかにも少林サッカーと同じテイストの映画であるかのような宣伝のしかたが、かえってこの映画の評価を落としている。つぎに4)から6)だが、この映画はいろいろなイベントが突然に起こる。それにかかわる人物がなぜそのような行動に出るのか、どういう目的なり意志なりでそのような行動を起こすのかの説明はいっさい無しだ。だから観客が主人公をはじめ登場人物に感情移入することをいっさい許さない。土曜日の午後によくやっている連続ドラマの総集編を見ているような気分になる。いや、総集編ならカットされた本編のシーンを想像できるが、この映画はその想像さえ拒んでいる。よくバラエティ番組の中で、レギュラーとゲストでドラマをやるでしょ、仮面ノリダーみたいな。ちょうど、それの豪華なやつという感じ。
そのちぐはぐ感は、ラストの最終決戦で最高潮に達する。ふつうカンフー映画の場合、主人公と敵が技を繰り出し死力を尽くし、主人公の優勢と敵の優勢が交互に入れ替わり、最後の最後で主人公の力量が敵よりわずかに勝っていたことで勝利を収める。ところが少林少女の場合、その戦いのリズムがまったく無い。なので、結局のところ敵が実は弱かったのか、はたまた主人公がとてつもなく強かったのか、よくわからないままそれぞれの戦闘シーンが終わる。A群の2)と3)の人を満足させられないのはこのためだ
では、この映画を観て満足する人はどんな人だ?そんな人がいるのか?いるさ、こんな人だ。

  【B群】少林少女を観て満足する人

   1) 柴咲コウがいればそれだけで幸せな人

   2) 柴咲コウが死ぬほど好きな人

   3) 柴咲コウが大好きな人

   4) 柴咲コウがわりと好きな人

   5) 柴咲コウをこれから好きになりたい人

   6) かっこいい柴咲コウを観たい人

   7) 笑ってる柴咲コウを観たい人

   8) 戦っている柴咲コウを観たい人

   9) 敵に蹴られてのびている柴咲コウを観たい人

   10) 汗をかいている柴咲コウを観たい人

私はべつにおちょくってこんなことを主張しているわけではない。アクション映画出身というわけでもなく、むしろ日本を代表する若手女優である柴咲コウがこの映画のためにどれだけの練習をしたか、素人の私が見てもよくわかる。むしろ、実写版セーラームーンのヘタレなアクションを1年間見続けた私だからこそわかることがある。柴咲コウの戦闘シーンはほんとうにかっこいいぞ。頭の高さまで右足を上げて敵に回し蹴り。そのときのシャープな腰の回転、軸足の安定感。もうそれだけでお腹いっぱい。この映画は柴咲コウの修行の成果を観る映画なのだよ。少林少女のイベントは突然に始まり突然に終わると書いた。そこへ行くまでの関係者の中での必然性の説明や心情の変化をちゃんと描いたら、2時間足らずの映画で出せるイベントの数などたかが知れてるだろう。だが、この映画はそんなことおかまいなしにイベントが起こるから柴咲コウの見所はたっぷりだ。そのつながりはまったくないがな。ということで、柴咲コウのファンの人は必見の映画だ。それ以外の人はクレヨソしんちゃんを観に行こう
(完)


あ、沢井美優を忘れていたよ。もう、絵に描いたようなチョイ役だよ。アップなし、イベントなし、単独のセリフなし。ラクロス部が映るたびにどこに沢井美優がいるか探すのに一苦労。この映画をこれから観る人は、猛スピードで走る車のナンバープレートを読み取るとか動体視力を鍛えておこう。私は8勝20敗くらいだったよ。道場の改修がおわって、みんなで少林拳の練習をやるとき、沢井美優柴咲コウの真後ろだからたっぷり映るよ。たっぷりと言っても、この映画でのたっぷりだけど。なかなか腰が安定した良い動きだったことを付け加えておこう

*1:その時点でこの映画はダメなんじゃないのか

*2:って、ぜんぜんダメじゃんこの映画