11月に読んだ本

希望が死んだ夜に

希望が死んだ夜に

空き家で発見された女子高生の首つり死体。私が殺したと自首した同級生。だが取り調べには一切応じず黙秘を続ける。この二人に何があったのか。貧困の問題をベースに後半で明らかになる真相でつぎつぎと別の様相を見せる真実...骨格は悪くないのだが同級生の動機というか行動原理に無理がある。貧困の問題も単に親が愚か、で片付いてしまう内容でいろいろ残念。次作に期待だ。


孤島の誘拐 (双葉文庫)

孤島の誘拐 (双葉文庫)

この作者がこんな込み入った物語を作れるなんて! 複数の当事者の目から見た物語が並行して語られているので最後まで事件の全貌がわからない。この手の作品にありがちなあざとさを感じないのは、当事者がみんなおバカだからなのだと思う。


牛家 (角川ホラー文庫)

牛家 (角川ホラー文庫)

何かの賞を獲った短編。ゴミ屋敷の清掃員が主人公の表題作より、異色のゾンビストーリーの「瓶人」のが好きだった。ヌメヌメ系は飴村行という巨匠がいるので意外とハードルが高い。


自分に何が起こったかではなく、自分がそれをどう感じたか。その捉え方を変えればどんな不幸も怖くない。ということだと思う。書いてあることはなかなか良く、説教臭くならないように実例にそって説明してあるのも良いのだが、やたら「(笑)」を入れる文体がむしろ損をしていると思う。


ホラーなら書けても巨大怪獣が出てくる小説を書くのは難しいと思う。それに挑戦した人気作家のアンソロジー。なかなか楽しく読める。


日航123便墜落の新事実  目撃証言から真相に迫る

日航123便墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る

著者は事故当時に日航のCAだった人で、実際に先輩、同僚、後輩を亡くしている。事故の原因や政府や日航の事故後の対応や発表、報告書に違和感を感じた彼女が30年かけて集めた目撃者や関係者の証言をまとめたもの。こんな証言があったのかと驚きの内容が多い。そこから浮かび上がってくるものはあるのだが、あえて著者は自分の想像を書かない。それは亡くなった方に失礼になるからだろう。一つ言えるのは、墜落の直後は100人近くの人が生きていた。また自衛隊や地元の人によって墜落地点も特定されていた。自衛隊も消防隊もすぐにスタンバイをして命令が来るのを待っていた。だがなぜか命令が来ることはなく、救助隊が現地に入ったのは墜落から20時間後。100人近くいた生存者は4人になっていた...


あしたの君へ

あしたの君へ

家庭裁判所の調査官を主人公にした連作短編集。裁判所の中で行なわれる聴取ではわからないことを現地に出向いて調査をする。関係者が聞かれたことをすべて正直に答えてくれれば何回かの聴取で済むのだが、本作の登場人物には言いたくない、言えない事情がある。その裏に隠れた事実は何かがミステリーになっている。新しいミステリーのスタイルとして技あり。


実話ホラー 黒い思ひ出 (だいわ文庫 I 325-1)

実話ホラー 黒い思ひ出 (だいわ文庫 I 325-1)

寝る前に読んでいた実話系ホラー短編集。実は寝る前にこういう本を読んではいけないよなと反省し、11月は別のジャンルを読んだ時期があったのだが、長編小説を読んだら続きが気になって眠れず、結局、朝の4時までかかって読破してしまった。朝から仕事なのに。そのためまたホラーに戻したのが本書。


眼中の悪魔 本格篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈1〉 (光文社文庫)

眼中の悪魔 本格篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈1〉 (光文社文庫)

山田風太郎ミステリー傑作選」が10巻くらい出ている。本書は「本格編」になっているがどれもホラーの味付けがしてあり、まったく古さを感じない。また、作者の文章にある日本語のリズム感は平成の作家にはなかなか無いものである。平成のミステリーに比べるとリアリティで劣る面があるが、そこは逆に発想の広がりになり、全編とも佳作揃いだった。