四天王「収束する物語」(後編)

一般に特撮ヒーロー物は物語が最終回に向かってどんどん拡散していく。初めは敵の怪人や怪物と1体1の戦いであったのが、背後の組織が見えてきて最後に地球への総攻撃が始まる。または強力な敵が出てきて被害が甚大になる。そこで最終決戦になるわけである。セーラームーンでも、妖魔、それを作り出す四天王、それを操るベリルとメタリアを本来なら順番に倒していくところである。現にアニメはその構造になっている。ところが実写版美少女セーラームーンは「収束する物語」である。
終盤で四天王がそれぞれの主義主張で死んでいく。これにはセーラー戦士は関与しない。四天王それぞれが自分の中の義で死ぬのだ。そしてベリルとジェダイトも死んでいく。これが予定された結末ならば、セーラー戦士の戦う相手はもう仲間内にしかいない。最後にプリンセスセーラームーンというブラックホールが登場してすべてを飲み込んでいくのである。
act36から最終話までの各エピソードを振り返ると、それぞれの回は重要なテーマが語られているにもかかわらず、一貫した筋が見えにくく、物語の構造がわかりにくくなっている。セーラー戦士のライバルであるはずの四天王がもはや敵ではなくなってしまい、ベリルでさえセーラー戦士の敵であることをやめてしまったからだ。敵がいなくてはヒーローの存在自体が成り立たなくなってしまう。では、ヒーロー物の図式を逸脱したかというとそうでもなく、この時期にダークキングダムに代わりセーラー戦士の前に立ちはだかるのはact41からact46まで登場した「ホシノハメツ」のメタリア妖魔である。これが事実上のボスキャラであること、さらに、これを倒すことが物語終盤のセーラー戦士の目的であることがもっと明確に語られれば、第4クールは違った印象になったはずだ。いまになって振り返ればそうとわかるのだが、放送中は「あ、こいつまた出てきたな」くらいの印象しかなかったのが残念である。おそらく

     ●もしメタリア妖魔を倒す決意がセーラー戦士の口から繰り返し語られれば

     ●もし四天王サイドが協力するなり邪魔するなりメタリア妖魔にかかわりを持てば

     ●もし覚醒したヴィーナスがメタリア妖魔に致命的な打撃を与えた技が、ヴィジュアル的にもっと迫力があれば*1

     ●もしメタリア妖魔をもっとお金をかけて強そうに作っていれば*2

など脚本上、演出上の配慮が無かったのが重ね重ね惜しい*3。とは言っても、四天王を単なる悪の幹部でなく、悩める青年達として蘇らせた脚本は見事である。白とピンクで彩られたカラオケクラウンの少女達とともに、暗い洞窟の青年達はまさに実写版の主役だったのだ。

*1:ここで出す技はプリティな技ではない

*2:せめてSpecialActの妖魔くらいに。ピエロじゃないですよ

*3:誰だ、act45と46の監督は