日本語は視認性というか視読性(そんな言葉あるのか?)において世界の言語の中でもっとも優れているのではないかと思っている。日本語で100文字くらいの内容の文章を英語、中国語、ハングル語で書く。それぞれのネイティブスピーカーにその紙を渡して、おおよその内容を把握するのに何秒かかるかのテストをしたら日本語がもっとも早いのではないかと思う。これは日本語の漢字かな交じり文によるものである。その文章の中で重要なキーワードとなる名詞、動詞は漢字、それ以外の単語はひらがなで書くのが日本語である。よって、漢字の拾い読みをすればだいだいの内容は把握することができる。これが論理的に積み上げたややこしい文章になると関係代名詞を持っている英語に軍配があがるかもしれないが、そこまでややこしい文章を書く機会は会社においてさえそうそうは無い。
そこで、この日本語の視読性を生かした文章を書くにはつぎの2点に留意する必要がある。
1.重要な語句以外はなるべく漢字を使わない
2.別のメッセージを表わす漢字の単語をつなげない
1はすぐにわかると思う。たとえば
× 内覧会に於いて御説明致しました製品の資料をお持ち致しました
2.内覧会においてご説明いたしました製品の資料をお持ちいたしました
この文章のキーワードは「内覧会」「説明」「製品」「資料」「持ち」なので、それ以外の単語に漢字を使って読者の目を止めないようにする。最近、私が難しいと思っているのが2である。たとえば
A.この資料を至急回覧してください
B.夏休みは毎日読書をしています
この文章を声で伝えるときは抑揚や間で正しく伝わる。ところが文章にすると「至急回覧」「毎日読書」と別の意味の漢字がくっついてしまい気持ちが悪い。Aならこのような書き方がある。
A-1.この資料を至急、回覧してください
A-2.至急、この資料を回覧してください
A-3.この資料を急いで(ただちに)回覧してください
A-1は、意味が途切れる位置に句点を入れる。方法論としてはオールマイティであるが、本来の句点の使い方を考えると「この資料を至急」と「回覧してください」の2つのブロックが形成されることになりエレガントでない。そこで文節の順序を変えても意味が成り立つ日本語の特徴を生かしたのがA-2である。文章が「至急、」で始まることにより「てめえら、目ん玉をひんむいて読め。至急だぞ、至急」と注意を喚起し緊張感を与える。ただ、この方法は言葉を選ぶことを後ほどBで説明する。もっとも美しいのはA-3ではないだろうか。「至急」などと難しい言葉を使うからこのような事態になる。「急いで」「ただちに*1」では緊張感が伝わらないという反論はあるかもしれない。それほど急いでいるなら自分で持って行けと。
それでは同じポリシーでBを書き直す。
A-1.夏休みは毎日、読書をしています
A-2.毎日、夏休みは読書をしています
A-3.夏休みは1日も欠かさずに(来る日も来る日も)読書をしています
どれもイマイチだ。とくにA-3は「毎日」ならこのような表現があるが、毎週や毎月、毎年になるとお手上げ。このような表現はアリだ。