「鮮血の美学」新旧比較

非常にマニアックな話題だが、過去の作品のリメイク版を作るとき、こういう改変のしかたがあるのだと感心したので紹介する。「鮮血の美学」という今から半世紀前の1972年に公開された映画がある。ホラー映画の古典にはだいたい入っている有名な作品。

Wikiより)
郊外に住むコリンウッド夫妻の一人娘であるマリーとその友人のフィリスが4人の男に強姦された揚句、惨殺されてしまう。やがて犯人と遭遇した夫妻は恐ろしい復讐を開始する

ホラーといってもお化けは出てこない。どこにでもいるような中年夫婦だが、娘を惨殺された絶望と怒りで犯人たちに残酷な復讐をする。小分類的には「スラッシャー映画」になる。AmazonプライムにもU-NEXTにも無いので、わざわざ中古のDVDを買って見てみたが、なにしろ半世紀前、現在の同ジャンルの映画と比べるとどうってことない映画だった。これのリメイク版が2009年に出ているのを知って、こちらは配信されているので見てみた。

ネタバレになるが、これを書かないと先に進まないので勘弁。新作では娘は死なない。瀕死の重傷ながら両親の元に戻ってくる。娘は水泳の選手、父親は外科医という設定が生きてくる。なんだ生ぬるい、だからリメイク版はダメなんだよと思う人はいるかもしれない。だが新作では重傷の娘を早く病院に連れて行かなければならない(よくある設定で、別荘が人里から離れすぎていて電話が通じない)という時間の制約が出てくる。これによって旧作にはない緊迫感が加わる。夫婦が犯人たちを殺すのも、戦闘能力ゼロの二人なので、犯人たちを無力化して娘を病院に連れて行くには殺すしかなかったわけだ。そして惨殺するのも、戦闘力がないのでくんずほくれつしているうちに結果的に惨殺になっちゃったというわけだ。それによって旧作にあった夫妻の狂気が薄れる代わりにサスペンスとアクションが見所の佳作に仕上がった。ただし、もはや動けなくなったボスの頭をレンチンしちゃうのは紛れもない狂気。