真夏の映画まつり「アングスト/不安」

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新宿のシネマート、ひさしぶりだよ。新宿武蔵野館はムカつくくらいフラットで前の人の頭でスクリーンの下の方が隠れるんだよ。シネマートはそこそこ傾斜がついている見やすい映画館だったんだな。でも韓流映画ばっかりでめったに来ないんだよね。本作は1983年、つまりいまから40年近く前に作られた映画。公式サイトの紹介文を転載するね。

描かれる内容もさることながら、作品自体が<異常>であり、その凄まじさは他に類を見ない映画史上に残る芸術性をも発揮、観る者の心に深い傷痕を残す。1983年公開当時、嘔吐する者や返金を求める観客が続出した本国オーストリアでは1週間で上映打切り。他のヨーロッパ全土は上映禁止、イギリスとドイツではビデオも発売禁止。アメリカではXXX指定を受けた配給会社が逃げた。ジェラルド・カーグル監督はこれが唯一の監督作。殺人鬼の心理を探るという崇高な野心のもと全額自費で製作、全財産を失った。*1

主人公は実在の人物、映画の内容も実際に起こった事件で、日本では過去にVHSビデオが発売されたことがあるらしいが映画館での公開は初めて。こんなの読んだら期待しちゃうよ。覚悟はいいか、オレ...結論から言うと、たぶん上映禁止になったのは描写の問題では無いと思う。これよりエグい映画はいくらでもある。登場人物の会話はほとんどなくて主人公のモノローグで映画が進む。つまりある行動を起こすにあたっての動機、その行動をしているときの心境、終わったあとの感想がつねにわかるわけだ。そして、人を痛めつけたり殺したりすることへの罪の無さ、ただ殺したいというだけの動機、その気持ち悪さやそういう人間がいることをリアルに再現したことが映画の上映やビデオの発売の禁止につながったのだと思う。内容の良し悪しや好き嫌いは当然あるだろうが、この映像を40年前に作った点は称賛されるべきだと思う。いまならドローンを使って簡単に作れるだろうが、留置場の屋上の上で水平に空を見ている視線が、見下ろすのではなくそのまま地上に平行移動する。屋敷の庭を移動する主人公を高いところからずっと見下ろす。早足で歩いている主人公と一定間隔を保ちながらカメラも移動する。同じことを少し上から見下ろしながら移動する。こういった、人間の視線ではない映像が多用されている。クレーンを使って撮影したのだろうが、この手間のかけ方が主人公に通じるものがあって怖い。別のテーマでこの映像を作ったら評価されたはずだ。また主人公は殺人が好きなだけで慣れているわけではない。毎回、すごい苦労をして人を殺し、殺した人を引きずって運んでいる。そこにある車椅子を使えよと思うのだが、その課程が好きなのかもしれない。結局、この映画は怖いかと聞かれたら怖くない。異常かと聞かれたらすごく異常。とてつもなく異常。