炎の28番勝負ー15、16本目「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「ルームロンダリング」

炎の28番勝負、16本で完結した。20本も行かなかった敗因だが、6月下旬に公開された作品が多すぎて、しかも公開期間が1週間とか2週間とか短すぎる。しかし16本も観て、王様のブランチの映画ベスト10に入っている作品が「恋は雨上がりのように」、「空飛ぶタイヤ」、「パンク侍」の3本だけというのは我ながら異常だと思った。
     
主人公の高校1年生・大島志乃は重度の吃音。母親とはふつうに話せるが学校では自分の名前さえスムーズに言えない。もう一人の主人公、同級生の岡崎加代はクラスの誰とも話さない。ミュージシャン志望だが壊滅的に音痴。担任の先生が主人公に「うまく話せないのはみんなと馴染んでないからだよ。もっとがんばろう」って、私は殺意を感じた。話すのが苦手なら先生に当てられたときに回答を言う代わりに前に出て黒板に書けば良いではないか。あとはミュージカルみたいに曲に乗せて歌うとか、これがラップになれば普通に話すまであと一歩。同じ悩みの人が読んでいたらすまん。茶化しているわけではなくて、「話す」と「馴染む」をいっぺんにやる必要はないじゃないかと思ったのだ。あるきっかけでこの二人が親しくなる。加代ちゃんは私と同じことを考えた。「あ、あ、あの、あ、あ」と話そうとする志乃ちゃんにメモ帳とペンを渡して「そこに書いて!」。学校の帰りに「あんた、歌は普通に歌えるの? カラオケ行くよ!」。すごいぞ加代ちゃん。志乃ちゃん、歌は普通に歌える。てか、上手。そこで加代ちゃんがギターを弾いて、志乃ちゃんが歌うユニットを組んで秋の学園祭に出ることになった。志乃ちゃんの度胸を付けるためにストリートミュージシャンをやる。二人は意気投合し、志乃ちゃんも加代ちゃんには普通に話せるようになる。だが異分子の存在で二人の関係に亀裂が走ることになる...こういうドラマ、ふつうは二人が仲直りして学園祭に出てクラスの人気者になって、と思うでしょ。全然違うんだよ。すげえな、クライマックスとラストをこれにした監督と脚本家の勇気に拍手。と思ったら原作があるのね。原因が外部にあるとは言え、それまでの世界を修復しようと志乃ちゃんが思えば修復できたのにそれをしなかった。ラストでその世界の外側にもっと大きな世界があることを予感させて映画が終わる。うーん、こんなビターテイストの話だとは思わなかったぜい。


     
タイトルは、賃貸の事故物件に1、2週間だけ住んで事故物件ではないことにしてしまうこと。なんでも屋オダギリジョーからの依頼で事故物件に住むのが主人公。だがこの主人公は霊が見えて会話もできる。現世への未練からその部屋に居着く霊に頼まれごとを引き受ける主人公だったが...長編映画はこの作品がデビューの監督らしいが、中盤の中だるみとエピローグのスピード感の無さが残念。あと主人公、私でも名前だけは知っている人気モデルだが、やはりモデルなんだよなあ。炎の28番勝負で見た映画、「リバースダイアリー」の新井郁、「四月の永い夢」の朝倉あき、「少女邂逅」の保紫萌香、「名前」の駒井蓮、「志乃ちゃんは」の南沙良。初めて見た女優さんだが、みんなオーディションを勝ち抜いて主役になった人たちなので演技は上手だし、なにより架空の主人公が憑依しているような存在感というか「私を見てオーラー」があるんだよね。フレームの中に何人いても観客の目が必ずその人に行くような輝きとか迫力。それに見慣れてしまってこの映画を観ると、ファンの人には申し訳ないが物足りなさを感じてしまう。連作短編集みたいなテイストで、一つのエピソードを15分くらいで3本。4本目が主人公の過去で、5本目を今回のクライマックスのエピソードにして全体のスピード感を上げれば主役はエライザさんのままでも傑作になったかもしれない。
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区切りがついたところで今年度の私のベスト3。

  洋画

  1 ダンガル

  2 シェイプ・オブ・ウォーター

  3 最初で最後のキス

  邦画

  1 恋は雨上がりのように

  2 祈りの幕が下りるとき

  3 劇場版ウルトラマンジー

  3 カメラを止めるな!

  次点

  ・ キスできる餃子

  ・ 志乃ちゃんは自分の名前が言えない

洋画自体ほとんど見なかったがインド映画「ダンガル」はベタ過ぎて日本では絶対に作れないスポ根ドラマ。エンドロールで映る本人が役者より美人なのが衝撃。「シェイプ・オブ・ウォーター」は評判どおり、この監督らしい美術的造形は映画館で観る価値あり。「最初で最後のキス」は3人の若者が気の毒すぎるトラウマ物の映画。「恋は雨上がりのように」は大きな起伏がない物語を映画用に再編成した構成の見事さと秀逸なラストシーン。「ウルトラマンジード」はジードの物語の設定の特殊さを生かした後日談。「カメラを止めるな!」はアイデアの勝利。ハリウッドがリメイクしそうだが、全編を流れる安っぽさがこの映画の良さなのでハリウッドでも韓流でもこれほど安っぽく作れないと思う。