真冬の映画まつり「愚行録」

貫井徳郎原作のミステリー。主人公は週刊誌の記者・妻夫木聡。妹・満島ひかり育児放棄で逮捕されている。主人公はいまだ犯人が見つかってない一家三人惨殺事件の謎を追い、関係者の話を聞いて回る。その関係者本人、そして関係者が語る事件の被害者が、悪行というほどの悪意はないのだが、愚行を犯す程度に愚かなのだ。ほどほどに良い人でほどほどにゲス。その愚かさが積み重なって物語はカタストロフィを迎える。だがもっとも愚かだったのは○○だった...地味な映画なのだ。派手なアクションがあるわけではなく、関係者の語りと、回想シーンの積み重ね。予備知識がまったく無い状態で観に行ったので開始30分までは、これはいったい何の話かわからずに眠くなったが、だんだん物語が浮かび上がってくるとグイグイ引き込まれ、つながる二つの話、○○の謎の行動、明かされる犯人、意外な事実、そして映画冒頭でもあった妹の語りが繰り返されるとその意味がまったく違った意味になっている...なんだよこの映画、名作じゃないか。なによりラストの満島ひかり、バストショットで固定されたカメラに向かって話しているだけなのにどんどん狂気を帯びてくる演技が素晴らしい。あと理由は書けないが妻夫木聡も名演技。さらに小出恵介をはじめポスターの上下段6人、笑顔の奥にあるドロドロが怖い。有名な俳優を集めることではなく、イメージに合った人を集め一人一人に良い演技をさせることが大事だ。これだけ地味な話を最後まで引っ張った脚本と演出が見事。あまり話題になっていないようだが、お勧めしたい一本。だが見終わったあとはひたすら鬱、どよーんと気持ちで映画館を出ることになる。