大動脈瘤への道

10月のある日、夏に受けた人間ドックの結果が送られてきた。いつもより厚いのでいやな予感はしたが、やっぱり封筒が入っていた。「腹部大動脈瘤 要精密検査」...今度はなに? 前立腺肥大は泌尿器科に行ったら「それは年齢から来るものなので自覚症状が出たらまた来てください」、胸部の大動脈拡大は「それは年齢ね」、大動脈蛇行は「年齢ね」、マジックワードかよ。検診センターもつまらないことをいちいち書くなよ。だが今回はビビる。大動脈瘤破裂って死因のひとつじゃないか。だいいち身体の内側で動脈が破裂したら人間の死に方として美しくないように思う。
私の主治医である近所の内科の先生に見せたら「それはうちでは見られないのよ(女性の先生)。血管外科がある病院ね。東京医科歯科大学の市川病院に行ってね」と頼りの先生に突き放される。初診は月曜日だけらしいので会社を休んで行ってきた。また「年齢なっしー!」と言われてすぐに終わるかもしれない。早く行けば午前中に終わって昼から出社できるのではないだろうか。ということで受付を済ませたのが午前8時15分...そして名前を呼ばれて診察室に入ったのが12時15分。なんと4時間待ち。新幹線なら東京から広島、飛行機ならサイパンあたりに行ける時間だ。老人が多いよ。私なんか最年少、ヤングマン、YMCAだ。日本の医療費がほとんど老人に使われているのがよくわかる。あんたたち、そんだけ生きればもう十分だろ。憤慨しながら部屋に入る。
封筒の中の超音波の像を見て「あー、たしかに瘤はできてますがこの大きさなら心配ないですね」。来たよ、まただよ。検診センターって絶対に病院からリベートが入っているだろ。診察で10ポイント、治療で500ポイント、手術で200ポイントとかが付いて、1,000ポイントで今治タオル、5,000ポイントで幻の吟醸酒、30,000ポイントでハワイ旅行とかをゲットしてるだろ。要検査を乱発するんじゃねえよ。「動脈はふつう20mmなんですよ。あなたは29mmですが、注意が必要なのが30mmを超えてから、治療が必要なのが40mmです。急に太くなるものではないので、まだ心配いりません。せっかくだからCTスキャンの検査をやっておきます? この画像は腹部だけなので胸の方から全体をチェックしますか?」「はい、せっかくなのでお願いします」。ああ、検診センターの思うつぼだ。CTはポイントが高いよな、きっと。300ポイントくらいじゃないか。これだけで宮崎マンゴーをゲットだよ。「では検査の説明をしますので待合室でお待ちください」と老人の園に戻る...うう、なかなか呼ばれない。てか、みんな昼飯に行ってるじゃないか。待つこと1時間、やっと呼ばれた。東海道新幹線なら静岡、東北新幹線なら宇都宮だよ。検査は15時から、当日は10時以降の飯はだめ。水は良いがコーヒーやジュースはNGだと。「では会計をしますので待合室でお待ちください」と部屋を出る。もうオチがわかったよ。ここでまた20分くらい待たされるんだろ...30分かよ。ぜんぶ終わったのが15時近く。もうこの日はほとんど病院にいた。滞在7時間、実働20分。ドラマのエキストラなみの生産性の低さ。
後日、CTスキャンで検査をしたら、私の動脈はもともと25mmあるそうだ。それが29mmなのでプラス4mm。「まったく心配ないですね。こちらの病院での定期検査の必要も無いです。人間ドックの検査で十分だと思います」だって。まあ、良かったんだけど、なにか納得がいかない。宮崎マンゴーを私にも食わせろ