実録・網膜剥離からの生還

11月25日 00:30 −予兆−
先週の火曜日の夜、といっても日付が変わってから風呂に入った。湯船につかっていると目に髪が付いている。手で払おうとしたら...なにもない。では眼球に髪が付いているのか? それにしては目に違和感がない。この黒いのは目の内側ではないか?
11月25日 13:30 −確信−
昼飯を食っていたときのこと。白い器を見て気がついた。右目の視界の一面に黒い点が見える。左目を閉じて右目だけ見ると、黒い点と灰色の点が混じっていて、黒い点は手前、灰色の点は奥と、壮大なパノラマが展開されている。だが今晩から大阪、金曜日は休日出勤の代休で家族と1泊で房総に行くことになっている。もともと来週の土曜日は眼医者で検査の日だからそのときでいいやと放置。旅行先で娘に散々脅かされる。娘が勤務する外科病棟は眼科の患者も入院するので目の病気に詳しい。白内障をはじめ、いろいろな病気と、どんな手術をするかを聞かされる...これは土曜日まで待たない方がいい。月曜日に半休を取って眼医者に行こう。
11月30日 10:00 −発見−
いつもの眼科に行って症状を告げると、なんでもっと早く来なかったのと叱られる(女医の先生)。瞳孔を開く目薬を差して検査。「眼底に穴が開いてるわね。夕方にレーザーで治療をするから17時半にもう一回来て」と言われる。眼底に穴が開くってどういうこと? 穴の向こうはどうなってるの? これらの疑問は家に帰ってから思いついたのでその場は気が動転してそのまま帰宅。夕方まで瞳孔を空けておかなければならないので20分に1回、目薬を差す。「ミドリンL」という軽薄な名前だが、これを目に刺すと瞳孔が開いて大量の光が入ってくる凶悪な薬。まさに危険ドラッグ。私は慣れているが、経験のない人にこの薬を投与すると
     
とルスカ大佐状態になる。会社に連絡を入れて1日休みを取る。金曜日に休んだのに月曜日にまた休むというサラリーマン的に最低の4連休。家に帰って夕方を待つ。20分に1回、しみる目薬を差すのがめんどくさい。瞳孔が開いているので1m先のテレビの字幕が見えない。
11月30日 17:15 −出動−
瞳孔が開いた状態で道を歩くのは昼間にしかやったことがない*1。眼医者に向かう道、あたりはもう真っ暗。まず街灯の明かりが凄いことになっている。街灯のランプの回りにLEDランプがたくさんぶら下がっているように見える。そして街灯に近づくとだんだん数が少なくなり、真下にくるとランプは元どおり一つになるが、その回りを円形の虹が囲っている。街灯が並んでいる道に出ると、本八幡の街がイルミネーション! 自動車のヘッドライトもイルミネーション。本八幡エレクトリカルパレードだ。医院に着いてさっそく処置。
どういうことになっているか、右上の図で説明する*2。眼球の中は硝子体(しょうしたい)と呼ばれるゼリー状のもので充填されている。いちばん奥に網膜があり、これがカメラのフィルムだ。硝子体は網膜と密着しているのだが、加齢により硝子体と網膜に隙間ができる。それ自体はとくに問題のないことらしいが、隙間ができる過程で硝子体の一部だけ網膜に貼り付いていることがある。この状態で硝子体が動くと硝子体が網膜から離れないで網膜の方がめくれて破けることがあるそうだ。これが網膜剥離。一部が破けたフィルムで撮影をするようなものだ。
11月30日 18:30 −閃光−
治療だが、網膜の裂け目がこれ以上広がらないように(広がると視野欠損、果ては失明になる)、裂け目の回りを円上にレーザーで網膜を眼底に焼き付ける。ようするに溶接だ。私の場合は、3重の同心円を作り亀裂をブロックした。実際の治療だが、眼圧を計る機械とか、眼底写真を撮る機械は知ってるね。あんな感じの顎を乗せておでこをつけて顔を固定する機械がある。さらに目にコンタクトレンズを入れて、そのレンズに照射器を密着させる。多少、眼球が押されるので痛い。そして患部に当たるように角度を調節して照射。視界が黄色になる。さらにピンポイントとはいえ網膜が焼かれるので痛い。注射の痛さではなく、火傷の痛さでもない。目といってもいちばん奥なので、目が痛いというより頭が痛い。いままで痛くなったことがない頭の一部に瞬間的に鈍痛が走る感じ。これを数十回。視界はずっと黄色。
11月30日 19:30 −暗黒から赤の世界へ−
「はい、終わりましたよー。視力が戻るまで少し時間がかかりますので気をつけてくださいね」と先生。左目の視力はあるのでまわりはふつうに見られるが、左目を閉じると真っ暗。レーザーの明かりで一時的に視力が無くなるそうだ。1分くらい経ってもう一度、左目を閉じると、おお、部屋がぜんぶ赤。赤と黒の世界。赤から色が戻ってくるのか。赤外線というくらいだから波長の長短の関係なのだろうか。先生が患部を確認している間、焼かれた網膜より、コンタクトレンズでずっと押されていた表面の方の後遺症のがでかくて、涙が出てくる。確認作業が終わってきょうの治療が終わった10分後には右目の視界は元に戻っていた。まだ瞳孔が開いているのでイルミネーションとエレクトリカルパレードの街を歩いて帰宅。ボクシングをやったわけではないのに、どこかにぶつけたわけではないのに、ただ「加齢」という原因だけでこんな目に遭う理不尽さよ。頭にきたからまたイベントに行っちゃうぞ*3