日本が世界に誇れるものがもう一つあった

ひさしぶりに目ウロコ本*1を読んだ。たとえばこんなニュース*2。新聞やテレビのニュースを見て国民が抱く日本の農業のイメージはこんな感じだろう。

  1.日本は世界最大の食料の輸入国 

  2.その結果、日本の食料の自給率は4割しかなく安全保障上の危機になっている 

  3.後継者不足や農地の減少で40年前に比べて生産高は半減している

ようするにダメダメということだ。私も過去にこんなことを書いたような気がする。本当にすまんかった。農家のみなさんに謝りたい。実は数年前から農水省が主導、プランニングは電通、協力が全国の新聞社とテレビ局で、「食糧自給率キャンペーン」が張られていたのだ。すっかりだまされたよ。だってほかの情報に接する機会がいままで無かったんだもん。順番に説明するね。
【日本は世界最大の食料の輸入国】日本の国民一人あたりの食料の輸入量はイギリスやドイツの半分以下。先進国の中ではアメリカについで輸入量が少ない。ただ、輸入量が多いとダメで少ないと良いというものではない。これはつぎに述べる。
【日本の食料の自給率は4割】これは絶対におかしいと思ってたんだ。だって女房といっしょにスーパーに買い物に行くと、かごの中の食材は8割以上が国産の食材だ。野菜はぜんぶ国産。外国産なんかパンで使っている小麦、めったに買わない牛肉、ノルウェー産などの一部の魚。こんなもんだろう。豆腐や納豆だって「国産大豆使用」と書いてある物しか買わないもん。これこそ農水省が無い頭を絞って作り出した魔法の計算式によるものだ。まずは分母は「国内の消費カロリー」、分子が「国内の生産カロリー」になっている。さらに分母にはコンビニやスーパーで期限切れで捨てられる食材(これがバカにならないほど多い)も入っている。そもそも食料の自給率なんか気にしているのは日本だけなのだが、これを生産額で計算すると66%になる。そして、この66%という数字は先進国の中では、1位のアメリカ、2位のフランスについで世界第3位の高さ。つまり日本は先進国の中では自給率が極めて高い国なのだ。
【安全保障上の危機】なぜこれほどの違いが出るかというと、輸入量が多いのは小麦、大豆、肉。つまり高カロリーの食材ばかりだからだ。そう書くと「だって小麦と大豆は大切だよ。それを全面的に輸入に頼っているのは危険だろ」と反論する人がいるだろう。別に日本は小麦や大豆が作れないわけではない。穀物を作るより野菜や果物を作ったほうが儲かるから作らないだけだ。生産量ではネギは世界1位、ホレンソウ3位、ミカン類4位、キャベツ6位、キウイは6位でアメリカを抜いている。これは安全保障などの問題ではなく単なる経済性の問題である。世界有数の農産物の輸出国であるオランダの食糧自給率は日本より低い。外国製と国産品のどっちが得か。ただそれだけの問題なのである。仮に日本が大豆の輸入国では最大の中国と国交が断絶したらどうするか。どこかよその国が満面の笑みで大豆を売り込みにくるはずだ。それが経済というものだ。自給率4割は大嘘だが、そもそも無理に自給率を高くする必要などまったく無いのだ。
【後継者不足や農地の減少】生産者が減っているのは日本だけでなく先進国共通の傾向である。日本だけが特別に減り方が大きいということはない。日本の農家は兼業農家が多い。ここは補助金目当てで自分が食べる分だけを生産しているところが少なくない、いわば家庭菜園の大規模なやつ。こういう農家が廃業しても国内の生産量にはまったく影響がない。むしろガチで農業をやっている専業農家に土地を吸収されたほうが生産量は大きくなる。こういう農家は補助金よりもあらゆる規制が取っ払われる方を望んでいる。世界に打って出たい野心を持っている農家も少なくないらしい。
【40年前に比べて生産高は半減】これもカロリーベース。生産量では40年前の6倍以上になっている。たゆまぬ技術革新の成果である。農業人口が減って、生産量が上がっている。農家一戸あたりの生産性は5倍以上になっているわけだ。海外に比べて日本は一戸あたりの耕地面積の小ささが話題になるが、これも兼業農家を含めての話。農業に命を賭けている専業農家はそれほど小さくない。北海道などはヨーロッパの農家と変わらぬ耕地面積を持っている。

どうだ、日本の農業のイメージがだいぶ変わっただろう。ここまで読んでいただくとなんとなく思うことがあるはずだ。

  もしかして、日本の農業ってすごいんじゃないの?

そう、すごいのだ。生産額ベースだと、世界1位が中国、2位がアメリカ、3位がインド、4位がブラジル。そして

  日本の農業の生産高は世界第5位

なのだ。考えてみてくれ。1位から4位の国は広大な国土を持っている。それに比べて日本の土地は狭い。さらに7割が山岳地帯だ。その残った3割に住宅や工場が建ち並び、その余ったわずかな面積で世界第5位の生産額を上げているのだ。そもそもヨーロッパは緯度では北海道より上にある。よって育たない作物がいろいろあるのだが日本は南北に細長い。北は寒冷地、南は亜熱帯。ジャガイモとサツマイモが両方獲れる国なのだ。経済性の問題で輸入しているだけで、世界有数の高い自給体制が整っているのだ。日本の農業にとって唯一の死角、それは農水省だ。さらに真実を報道して政府の嘘を暴くどころか、政府の広報機関となっているマスコミだ。なにしろ農水省は国民の危機感を煽っておいた方が予算が確保できる。その予算を明日の農業のためではなく、自分たちの天下り先になる関連団体に落としているわけだ。
よかったな、みんな。日本が世界に誇れるもの、工業製品、サブカルチャーに農業が加わった。あと安座間美優*3

*1:目からウロコが落ちる本

*2:http://www.asahi.com/food/news/TKY201008100360.html

*3:なんで?