北川景子や
西田奈津美さんも好きな
重松清と茂木先生の対談。
重松清の小説の主人公は大なり小なり問題を抱えている。学校でのいじめや崩壊しそうな家庭とか不治の病とか。その問題がどんどん大きくなりカタストロフィを迎えるのが物語のクライマックス。エピローグを読むと結局、問題は根本的なところでは解決していないのがわかる。ではバッドエンドかというとそうではなく、主人公はその問題に真正面から向き合うことができるようになっている。そこが予定調和で安易な物語を避けようとする作者の心意気を感じる。この点は以前にも書いたことがあるが、この「涙の理由」の中で
重松清が「僕の話には解決は無く、そもそも解決があるような物語なんか書かない」と言っていた。おお、私は正統な読者ではないか。
「
イニシエーション・ラブ」の
乾くるみの最新作。「
イニシエーション・ラブ」は最後の1行で、そこまでの世界観が180度変わる大どんでん返しで有名な作品。残念ながら、私は意味がわからなかった。この作品は読み直さなければ仕掛けがわからないと言われているが、めんどくさいのでわからないままである。そんな作者なので、本作はかなり慎重に読んだ。たしかに最後の方でどんでん返しが待っているが、私は半分を過ぎたところ、視点が2度目に変わるところでこの物語の構造がわかってしまった。この作品をミステリーとして読むと意外な結末となるのだろうが、SFの作法で読むとからくりがわかってしまう。逆にミステリーの文法で読むと、どんでん返しに使っているある技術がこの小説の世界では既定のものになっているという記述が前にはなく、いささかアンフェア。だが、もともとがノンジャンルの作者なのでこれはこれで良いのだと思う。この人の初期の代表作「Jの神話」なんか、ミステリーかと思って読むととんだエロ小説なのだから。触手好きの人は読むべし。
あいかわらずこの人の発想はおもしろい。けっこう「あ、それなら俺も考えたことがある」というのがあってニヤリ。
この人の作品の中ではかなりの異色作。タイトルの
「太陽」はそういう意味だったのか。「
猿の惑星」に見せかけて...ただ、ベースにあるのはオタクの青年の自立の物語なので、ダメ男に向ける作者の優しい視線は朱川さんならでは。
西欧の名画を見ながら、それが書かれた時代背景を語るもの。この分野は以前に紹介した「怖い絵」という重厚な作品があるので、かなりガイド的な軽い内容に感じる。このテーマで、日本美術を扱った本が読みたいな。
せつな系時間SFというカテゴリを確立した筆者だが、本作はある女性が男女を恋仲にする呪術を偶然に体得してしまう。タイトルの
アイスマンは「月下氷人」から来ているが、私はこんな言葉を知らなかったよ。仲人のことなのね。ちょっとできすぎのラストだが、主人公の境遇に同情しまくりなので、むしろホッとする。これも最後にどんでん返しがあるのだが、上で紹介した「スリープ」と比較をすると興味深い。呪術という超自然なものを扱いながらも、この物語の中での各種の制約条件が中盤までに提示される。そして終盤のサプライズはその制約条件を守って、この物語の世界観では極めて論理的に説明できる。「スリープ」はおもしろかったしけっして揶揄するつもりはないのだが、SFの作法としてはこちらの作品のが正しい。
それほどエキセントリックな人はいないのに、登場人物がどれもキャラが立って生き生きと動く作者の力量はあいかわらず。どの人も本当に魅力的。高校を卒業して進学をする気もなく、就職をする気もない主人公が、母親の陰謀で山奥の
林業を営む小さい会社に就職させられる。そこでの1年を描いたものだが、自然とともに生き、自然から生きる糧を得ながらも、自然への畏怖を忘れない人々。The日本人という感じだなあ。
ほぼ衝動買い。まさか読破できると思わなかった。人はいとも簡単に他人に支配され
服従してしまうことを実験や戦争の実話に基づいて論証するのが前半。後半は、ではどうやって他人を支配することができたかを、
ヒトラーから始まってオーム、果ては
キリスト教、
マルクス主義について解説する。いやはや、おもしろい。この4つを一括りにしてしまって良いのか(笑) 大学の教養講座の
講義ノートを加筆したものなので思いのほか読みやすい。実例も抱負で、こういう先生に習いたかった。最後にちょっとだけ、他人に取り込まれないためにはどうしたらよいかも教えてくれる。
どの作品も主人公に感情移入ができない、そもそも好きになれない人物ばかり出てくる
辻村深月。これはホラー色が強い短編集。短編だけに主人公に思い入れがない分、この作者の作品ではもっとも抵抗なく読めた。
寝る前に読んでいる異形シリーズ。これは6、7年前に刊行されたもの。おもしろいじゃないか。やはり異形シリーズは昔のやつのがおもしろい。これは「グランドホテル」という名のホテル。わかりにくい山奥にあり、毎年8月1日は「星まつり」が行なわれ、なぜかここでしか見られない流星群。数々の奇怪なことが起こる、夢が一つだけかなう、などいろいろな伝説がある。この設定でいろいろな作家が書いたアンソロ
ジーが本書。この趣向は楽しい。ただ、なんとなく読んだような話が多いのは、私は6、7年前に一度、読んでいるのかもしれない。