11月に読んだ本

賢者の贈り物 (PHP NOVELS)

賢者の贈り物 (PHP NOVELS)

攪乱者 (ジョイ・ノベルス)

攪乱者 (ジョイ・ノベルス)

マイブームの石持浅海。2冊とも「日常の謎」。たしか前に読んだ作品もそうだった。不可能犯罪が起こって名探偵が事件を解決する。このパターンに手垢が付きすぎているのだ。また21世紀の現代において、警察の捜査で解決できない事件を「探偵」が解決することのリアリティが難しいのだ。この「日常の謎」だが、どうしても物語のダイナミクスの点では劣る。「日常」なのだから。そこで「攪乱者」では舞台を本部からいろいろな指令が来るテロ組織の末端にして、この指令はどんな意味があるのか−公園にアライグマの檻を置いてくる、レモンを売り場に置いてくるなど−を構成員が考えるという仕掛けの新しさで勝負している。


去年はいい年になるだろう

去年はいい年になるだろう

400年後の未来からアンドロイドの大群が現代にやってくる。400年後の歴史ではすでにわかっている戦争や災害を未然に防ぎ人類を幸せにするため。以前に紹介した「アイの物語」*1もそうだが、もし人間そっくりアンドロイドがいたらどうなるか? 人間はその案取り度を見てどう思うか? 作者が描く400年後の未来、たしかに「それ」しかないだろうと思えてしまう。


日本という「価値」

日本という「価値」

2010年度の私のノンフィクション大賞はこの本だ。現代の政治、経済を語った本で過去数十年に読んだ本の中でこれがいちばん面白かった。日本の長引く低成長、これは政府や日銀の失策だけでなく資本主義の宿命なのだと。その中で新自由主義に深くコミットしてしまったアメリカと日本が深い傷を負ってしまった。第一次産業、教育、医療がガタガタになるのも資本主義、とくに新自由主義グローバリズムの性質。この本に集められた論文は数年前に書かれたものだが、筆者がこれを書いた時点より今のがガタガタになっている。バブルの崩壊と並行して生じている日本の政治の混迷。これも自民党民主党の拙攻はあるが、民主主義の宿命でもあると。なので、経済も政治もこの数年でどうにかなる問題ではない。筆者は価値の転換を図ることの重要性を説いているが、私はせいぜい面白おかしく生きていこうという決意を強くした*2


思考の飛躍―アインシュタインの頭脳 (新潮選書)

思考の飛躍―アインシュタインの頭脳 (新潮選書)

特殊相対性理論光電効果一般相対性理論アインシュタインはどういう発想で行き着いたかを辿りながら現代物理学を足跡を語る。「神はサイコロを振らない」と量子力学に反発したアインシュタインだったが、その量子力学の基礎を作ったのもまた彼だった。また「E=mc2」のシンプルな美しさに比べ、一般相対性理論の記述は本人が持て余すほどの複雑さで、それ以降の物理学は彼が愛した単純明快さから離れていった。ただ、その道を拓いたのも彼である。この本によると、アインシュタイン量子力学そのものに非を唱えていたわけではなく、それを包括するような理論があるはずだと主張していたようだ。


幸せの新しいものさし

幸せの新しいものさし

博報堂の編集。幸せを測るには従来と別なものさしが必要になったのではないか。そのものさしを見つけた人の話。個人の予算を撤廃して全社でいちばんの成績を上げた女性店長、社員の幸せを第一の経営目標にしている社長、子育てをするお父さんのサークル。この手の本って観念論ばかりで「じゃあ、俺はどうすればいいのよ」となるが、この本に収められた11人の話はどれも成果を上げている人の実話なので面白い。カツマ*3とは別の世界がここにある。

図地反転

図地反転

タイトルは目の錯覚や心理テストであるやつ。黒と白の模様があって向かい合った顔に見えたり壺に見えたりするやつね。警察でいったん容疑者を決めるとそれを覆す証拠が出てもなかなか方針が変わらないというテーマのミステリ。うーん、容疑者にはなりたくないものだ。


星間商事株式会社社史編纂室

星間商事株式会社社史編纂室

主人公は28才の腐女子。仕事の大チョンボで社史編纂室に左遷させられる。それでもめげずにボーイズラブ小説を書いてはコミケに出店する。そんな主人公が会社の歴史に潜む謎に気づく...この三浦しをんの小説の登場人物はなんでみんな魅力的なんだろう。悪役でさえ憎めない愛すべき人物だ。主人公に色恋沙汰が無いのもいい。悪を憎む正義感も青春を賭ける目標も無いのだが、ヤルときはヤル。この作者のベクトルがスポーツに向いたとき「風が強く吹いている」のような傑作が生まれるのがわかる。あ、この作品は佳作だから。


人生の壁にニーチェやカントがどう応えるか哲学の実践ノート

人生の壁にニーチェやカントがどう応えるか哲学の実践ノート

青春出版社の本を読んだのなんて「試験に出る英単語」以来ではないか。人生の素朴な疑問に対して過去の哲学者はどう答えているかを解説した本。全体的に薄っぺらいぞ。しかたないよ、青春出版社だもん

*1:http://d.hatena.ne.jp/M14/20080629

*2:ヲイ!

*3:カズヨね