北川景子「大女優への道」花のあとレポ−感想編

昼の錦糸町の映画館。同じく藤沢周平蝉しぐれを観に行ったときは*1老人ばかりだったが、今回はどうなのだ? 北川景子人気で半分くらいは若い人なんじゃないかな。だってそうだろう。映画館に入ると

  中高年ばかりだ...○| ̄L...

北川景子めあてか男優めあての若い女の子が4、5人。あとは50代、60代の中年夫婦、70代かもっと上の老年夫婦。みんなどうしたんだよ、北川景子だよ。いまもっとも輝いている女優の北川景子だよ、女子高生がもっとも憧れる役の北川景子だよ、サバ味噌を一口で食べる北川景子だよ。それとも昼だから中高年ばかりなのかな。老人は寝るのが早い。対して、若者は暗くなるとどこからともなく湧いてくる*2。うう、今回も加齢臭とか老人臭が漂っている。けっこう人が入ってるよ。私が映画に行くのは金曜日のレイトショーばかりだったので、いつもガラガラ。きょうはけっこう人が入ってるぞ。なにしろ上映館が少ないからな。席が空いてなくて前から4番目くらいに座る。前すぎるだろ、下から見上げると北川景子の顎の肉が目立つんだよ。
映画が始まる。花見のシーンでさっそく北川景子の登場。そりゃそうだ、主役だもん。あれ、

  北川景子はどこから声を出しているんだ

激しく作り声。武家の娘が上品に話す様子を表わしているのかな。昨日のあらすじ編を作るにあたっていまから6年前に放送されたact40を見直したけど、

  北川景子のセリフはあまり進歩してない初心を忘れてない

でも幸いなことにこれは時代劇。なんとなく「昔の武家の娘はああやって平坦にしゃべるんだろうな」と納得できるものがある。それにしても「真夏のオリオン」の戦中シーンもそうだったが*3

  北川景子はデコ出しが似合わない

やはり日本髪が似合うのは富士額(ふじびたい)、華子様みたいなデコなんだろうな*4。だから冒頭とラストの2回の戦闘シーン*5でのポニーテール*6がいい。孫四郎と自分の屋敷の庭で試合をしたあと、服だけ道着から振袖に着替え、髪はポニーテールのままで孫四郎の隣に座る。あそこが最高。
でもヤバイよ、この映画は。ずるいよ、卑怯だよ。私にとって涙の地雷があちこちに埋め込んであって、ラストの方なんか泣き要素の連続放射。もう声を出して嗚咽しそうになったよ。悪かったな、私は藤沢作品に弱いんだよ。
北川景子のセリフは少ない。だから何を思って何を考えているのか観客が想像する部分が多い。あらすじでわかるように最後は北川景子が意中の人を死に追いやった相手に復讐をする。以前に正義を行使する様を描くことの難しさを書いた*7。宮部○ゆき原作の「クロスファイア」では超能力を持ったOLが悪い奴をやっつけることの必然性が描き切れていなく、またはそんなことを描き切ることがそもそも無理で、主人公の行動原理がいまいち読者に伝わらなかった。映画の方は正義の二文字を封印して単なる復讐談にすることによってむしろ観客は主人公に共感することができた。原作より映画のが良い作品であった希有な例だったと思う*8。この「花のあと」だが、主人公の多くを語らない押さえた演技や、いざとなると意外にやり手の許婚が集めた情報によって、ラストが単なる私怨による復讐にとどまってないことを観客に感じさせる。汚されてしまった義を正さないことには、自分はこれから生きていけない。社会を正しい義が貫いていなければ、自分の生き方そのものが無意味になってしまう。その「正義の行使」が北川景子の復讐の向こうに透けて見える。それがただ一人愛した男性の復讐劇を別の次元に昇華させている。
もちろん、これが現代だったら一人の娘がそんな大それたことを考え実行することのリアリティはない。そこは時代背景なのである。北川景子は剣の達人だ。21世紀に剣道の有段者だからといってどんな暴力にも立ち向かっていけるものではない。だが、この時代において市井に出回っている唯一の武器は刀である。それの達人ということは、現代なら対戦車砲とかF-22ラプター戦闘機を保有しているのに等しい。だからといってそれを使って良いものではないのだが、この時代は敵討ちが違法ではない。日本はもちろん、人類の歴史において敵討ちが禁止されてから200年にも満たない。国民から敵討ちを取り上げて、国家が集中管理するようになったのが現代の法制度、法治国家である。その点では我々が生きる21世紀はエンターテイメントの舞台になりにくい時代と言える。だからこそ私はぬくぬくとこんなブログを書いていられるのだが。
決闘の最後、刀を弾き飛ばされてしまった北川景子に敵(かたき)の凶刃が迫る。敵が北川景子に聞く、おまえは孫四郎とどういう関係だったのだと。ただ一度、剣を合わせただけというあまりの関係の薄さに敵が驚く。それだけのために命を賭ける愚かさに驚く。このシーン、いま思い出しても泣ける。日々の行動が、対価や見返りに裏打ちされてないと安心できない若者にこそ見て欲しい、愚かにも美しい日本人の物語である。
ところで、決闘をどこかで見ていた許婚。北川景子が殺されてたらどうするつもりだったのか