こんなニュースがあった*1。
田中義剛が経営する北海道の「花畑牧場」。07年に発売した生キャラメルが爆発的ヒットを記録し、
07年3月期に3億4200万円だった売り上げは、09年3月期は143億1500万円にアップ。
田中はTVなどメディアに出まくり、生キャラメルブームが起きた。
田中は今年に入っても拡大路線を突っ走り、花畑牧場は2月に東京に進出し、
渋谷、青山、銀座など8カ所で直営店をオープンさせた。
ところが、この1カ月ほどの間に竹下通り店、渋谷店、青山店、銀座店(ホエー豚亭)の4店舗が閉店……。
事業縮小を余儀なくされている。
(中略)
花畑牧場は8月末には北海道・札幌の生キャラメル工場が閉鎖となり、
300人の従業員を“リストラ”したことがマスコミで取り上げられた。
3年前に行ってきたよ。本人がいたよ*2。この生キャラメルだが、イノベーションには種類がある(テキトーに書いてるから経営書と見比べて突っ込まないでね)。
1.それまでに無いものを生み出す
2.別の用途、別のセグメントに売り出す
3.同じ性能・品質で価格を大幅に下げる(=同じ価格で性能や品質を大幅に上げる)
そこでこの生キャラメルだが、これと同じ物はキャラメルを作っている会社ならどこでも作れたのだと思う。ただし、価格がどうしても500円を超えてしまう。千円でお釣りがほとんど来ないキャラメルなんか売れるのかよとどこも製品化しなかっただけなのだろう。だが、北海道に旅行されたことがある方はご存じだと思うが、新千歳空港などのお土産屋でロイズの生チョコレートを千円くらいで売っている。チョコレートが「生」で千円なら、キャラメルも「生」ならもっと高く売れんじゃないの? がスタートだったと思う。これ自体はイノベーションなわけだ。
4.付加価値を付けて価格を大幅に引き上げる
そしてこれを成功させた彼は立派だ。千円近いキャラメルを売るというそれまで誰もできなかったことをブレイクスルーするために彼が用いた手法は
1.田中義剛の知名度
2.芸能人である田中義剛が牧場を経営しているという物語
である。もしこの2つだけで生キャラメルが売れるなら東京の店舗や札幌の工場を閉鎖することはなかったと思う。彼が気がつかなかったこと、または気がついていたのだろうが1と2があれば突破できると思っていたことは
3.せっかく北海道に来たんだからおみやげを買って帰りたい
4.おみやげはもともと高い
北海道土産の定番、六花亭のマルセイバターサンドもロイズのチョコレートも生キャラメルよりはるかに高い。マルセイバターサンドなど、あんな小さいのが1個100円以上もするのだが、あの味は他社のどこにもマネができない。この2社はナショナルリージョンの大企業と競争しようという気はまったく無く、北海道土産の定番でありつづけることを社是としている。青森県生まれの彼は「田中義剛=北海道」のイメージ作りをしてきた。「田中義剛ブランド」「花畑牧場ブランド」も北海道というブランドと離れたところでは彼が思ったほど強くなかったのは皮肉としか言いようがない。
彼のもう一つの蹉跌は、彼が作った「生キャラメルは高い金を払うだけの価値がある」の神話は彼でなくても利用できることである。10年くらい前に六花亭が開発した新製品、名前は忘れたが乾燥させた苺をホワイトチョコレートでコーティングしたやつは、いまではいろんな会社が作ってどこでも売っている。だが、六花亭のそれは北海道でないと売ってないので、いまでも観光客が買い求める。花畑牧場の生キャラメルも北海道の空港だけで売っている分にはまだまだ売れる商品であるはずだ。
いろいろ書いてきたが、どの企業もひたすら低価格を追求するいまの日本で、キャラメルを千円で売ることを成功させた彼の功績は東京進出の失敗で色あせるものではないと思っている。これからもがんばってください、リチャード田中さん!