多岐川華子「華子様に会いに行こう」(その4)

そろそろ席に着きましょうと、自分の席に行く。私と鱸さんは隣同士。StreamKatoさんは5席くらい離れている。時間だ。場内がだんだん暗くなる...暗くなった...真っ暗になった...暗いままだ...おおい!伝説の「水に棲む花」試写会の悪夢が!だいじょうぶ、映画が始まった。裕美お母様が見に来ていると信じて疑わない鱸さんによると、あの真っ暗な時間の間に場内に入ったのではないかと。そこまでするか?。
さて、かんじんの映画だが、原作は有名な文芸作品なのでネタバレもなにもないのだが、興味がある人はこのあたりを見てくれ*1。結論から言うと、見終わったあと、これほど切なくいつまでも胸が苦しい映画は初めてだった。ただ、私は主人公に感情移入しまくり*2、主人公の心情読みまくりなので、とても冷静に判断できない。華子様以外の女優がこの役を演じたらやはり胸が苦しくなったのだろうか。あるいは華子様を嫌いな人がこの映画を見たらどういう感想なのだろう。
華子様演じる主人公は自暴自棄、傍若無人な振る舞いで回りの人を、結果的には自分自身をどんどん傷つけていく。だが、この主人公を叱ったり諭すような大人はこの物語にはいない。その点においてこの主人公はたまらなく不幸だ。その不幸が外部要因ではなく、ただ主人公の愚かさから来ていることに観客は苦しさを感じる。もちろん主人公がそうなったのには理由があるのだが、それは自分自身で悲しみを昇華させ、現実と折り合いをつける以外に方法は無く、無茶をして良いということにはならない。
そこでだ、ここがこの映画の肝なんだが、観客が「なんだよ、この娘いいかげんにしろ。死ね!」と思えれば、見ていてこれほど苦しくないのだ。観客はこのストーリーから味わうストレスを、主人公を憎むことによって発散できる。ところが、華子様演じる主人公は、憎むにはあまりに脆く、はかなく、痛々しく、胸がない*3。よって、暴走する主人公によって観客が味わうストレスは発散されずにどんどん胸の内にたまっていく。なお、ここで私が言ってるストレスとは「イライラ」ではなくて、哀しみとか切なさだからね。華子様を嫌いな人、いやそんな人はそもそもこの映画を見ないか、少なくとも特別な思い入れが無い人が見たら私と同じように感じるのだろうか。もしそうならば、この映画の脚本、演出、華子様の演技、そして主役に華子様を選んだ制作陣の勝利なのである。
物語のクライマックス、雨に打たれればこれまでの自分を洗い流せるという主人公、海に行きたいという主人公。そのとおり、雨も海も出てくるのだが、主人公のこの主張はあくまでも主人公の内面世界での論理なので観客は共有することができない。主人公が雨に打たれて絶叫しても、主人公が海で少年と戯れても、それで主人公が抱える心の傷が治癒されるのか観客はわからない。必然的に主人公のつぎの出方、主人公の今後の生き方を息を呑んで見守らざるを得ない。つまり、クライマックスの海のシーンがこの物語のカタルシスにならないわけだ。そしてラスト。え?そう来る?というラストがあって、ある意味、予定調和でないところが物語の終わり方として予定調和なのだが、その終わり方だと観客のストレスはけっきょく解消されないまま映画館の外に持ち出されることになる。私なんか土曜日はほとんど廃人だったよ。
これがこの映画の正しい鑑賞法なのかよくわからない。これが監督の狙い通りなら、もう身体に悪いくらい胸が締め付けられる映画、名作とまでは言わないが佳作である。だが、あの海のシーンをカタルシスにして、ラストは単なる後日談としてさらっと流すのが正しい鑑賞法ならば、あそこのシーンは弱い。あれがカタルシスになり得ることの説明が事前に必要だ。それを狙っていたなら観客には伝わらないので駄作だ。まあ、ここは人それぞれの解釈と楽しみ方をするところなのだろうな。私はもう1回見に行くよ。
最後に華子様の演技。北川景子小松彩夏の芝居でときどき体験するハラハラ感はない。メソドルのレポでも書いたが、華子様はフラットなセリフは危なげない。号泣するシーンや絶叫するシーンの迫力は北川景子には及ばないが、これはしかたない。ほんと、女優としての経験は北川景子の100分の1くらいでこのクオリティなのだから、もっと欲と志を持っていただけば、けっしてAカップグラビアアイドルで終わる人ではないのだが。
今後の課題は2つ。これもメソドルのレポに書いたが、歩くときに体幹がふらつくのが、背後からの全身ショットで目立つ。とくにこの映画のプロローグとエピローグ、少年の回想シーンで華子様が歩く姿を遠景でとらえるシーンがあって、いまいち歩き方がきれいでないのが惜しい。これは安座間美優にウォーキングを習えばいい*4。あと、齧歯類の前歯をお持ちなので、この前歯が邪魔で苦手な発音が1、2個あるような気がする。ドラマだとそれほど目立たないのだが、バラエティ番組に出たときに緊張してしゃべると、口を上下に動かして音を形成するところを、前歯を出したまま口を横に広げたりすぼめたりして話すので、口を尖らせた生意気な話し方に見えてしまう。華子様が女優としてどれだけ大成できるかは、この齧歯類の前歯しだいと言っても過言でない*5

*1:http://www.hatsukoi-movie.com/

*2:正確には中の人にだが

*3:胸は関係ないだろ

*4:無理だろ

*5:明らかに過言だろ