「自分の身体で実験したい」(前編)

なまことかを食べるとき「最初にこれを食べた人は勇気があったよね〜」と必ず誰かが言うだろう。この本は、人体に危険なことを世界で初めて自分の身体で実験をした人の話だ。

     1.人間はどこまでの熱さに耐えられるか実験をした人

     2.消化のしくみを調べるためいろんなものを飲み込んだ人

     3.笑気ガスの鎮痛効果を実証した人

     4.トルコ熱という死に至る病にあえて感染した人(半月で死亡)

     5.黄熱病は蚊で感染することを自分の身体で実証した人(半月で死亡)

     6.放射線を生身で研究した人(キューリ婦人です)

     7.あらゆるガスを吸い込んだ親子

     8.カテーテルを初めて心臓に入れた人

     9.時速1000kmを体感した人

     10.洞窟の中でひとりで131日間暮らした人

なまこを最初に食べた人は、これしか食べるものが無くて泣く泣く食べたかもしれない。あるいは、いじめられっ子に無理やり食わされたとか。だが、この本に出てくる10人は全員が科学者。みんな危険を承知の上で、その過程を克明に観察するために、あるいは危険すぎて他人には頼めなくて自分で実験したわけだ。
1行にまとめるとどうということはないが、実際のドラマはすごいぞ。本の表紙の絵は消化の研究をした人。鉄、ガラス、何が消化できるか手当たり次第に飲み込んでみた。さらに消化の進行を調べるため、消化されにくいように筒の中に肉を入れて飲み込む。出てきた肉を見て、消化の程度を調べてからもう一度飲み込む。って、下から出てきたやつを上から飲み込むのね。オエッ!
黄熱病が蚊から感染することを調べるために、わざと蚊に刺されてみる。結局、すぐに死んじゃったんだけど、彼がここまでやらなければならなかったのは、黄熱病は蚊で感染するのではなく、患者の体液で感染するという説が有力だったからだ。そこで後任の人は彼の死を無駄にしないために体液では感染しないことを実証した。患者のゲロ、膿、糞尿まみれのベットの上で1ヶ月近くを過ごしたのだよ。黄熱病にならなくても死にそうだが。
この中でどれかをやれと言われたらみなさんはどれを選ぶだろうか。4番、5番は問題外として9番あたりではないかな。時速1000kmで走るロケットエンジンの付いた車、1000km自体は怖くない。問題は加速と減速だ。この人は加速度による圧力で何度も骨折している。さらに時速1000kmを達成したときは停止後にしばらく目が見えなくなってしまった。減速時に飛び出さないように身体と頭はシートに固定したのだが、慣性の法則によりただ一つ固定してなかった目玉が飛び出してしまったのだよ。
(つづく)