ゲキレソジャーが好きな君に

日本的なかっこよさ、時代劇や任侠物は苦手でも日本人のDNAに刷り込まれたヒーロー像、なぜか胸が熱くなるヒーローの姿がこれだ。時代は大正。日露戦争は終わって、かといって太平洋戦争はまだまだ先の貧しくとも平和な時代。主人公は帝都に名をとどろかせた「目細の安吉」一家。親分の安吉の得意技は「中抜き」。財布をすって中身だけを抜いて相手の懐に返す。あまりの神業に、擦られた人は空になった財布を神棚に上げるわ、安吉に中抜きされたのはどんな奴だどんな財布だと人が集まり酒が飲めて祝儀さえ集まる。この一家は訳ありの財産だけを狙い、貧しい人を助ける義賊なのである。飲んだくれの父親のためにこの一家に売られてしまった少年。いまは老人となったその少年の回想というかたちで安吉一家の活躍が描かれる。同じくスリの姐さん、書生風の詐欺師、「天切り」といって屋根の瓦をはがして家に忍び込む大技の兄貴分、これだけ異能の戦士が集まれば面白くないわけがない。
またところどころに出てくる浅田次郎による講談調の節回しが実にいい。第一話は官の策略で自分の師匠を逮捕された安吉が、それまで住んでいた大豪邸を引き払い長屋に身を隠すまでだ。全員を連れて真夜中の逃避行を決行する。途中途中で長屋に札束をばら巻きながらだ。

     振り向いて見れア千鳥ヶ淵から九段坂、今を盛りの夜桜だ。

     大内山から壕ごえの、風が渡ってぱっと散らせア絵にも描けねえ闇の花道。

     (中略)

     野郎ども、ぬかるんじゃねえぞ−へい、と声を揃えて俺っちア、

     目もくらむてえほどの果てのねえ花道を、たたらを踏んで走り出した

ああ、日本人に生まれてよかった。母国語が日本語でよかった。おかげで英語はこの年になっても身に付かないが